女子中学・高校が受け入れの検討を開始したという産経新聞の報道は、たいへんな反響を呼びました。私たちは、報道で名前のあがった学校に宛てて、それがどのようなリスクをもたらしうるか、また、女子生徒たちの成長にどのような影がさすかを伝えるために、手紙と資料を送りました。
女子生徒の心身の健全な成長のためにご努力なさっている皆様に敬意を表します。私たちは、女性および子供たちの人権と安全を求めて3年前から活動を続けている市民団体です。
2024年2月10日付『産経新聞』の報道によると、「戸籍上は男性でも女性だと自認しているトランスジェンダーの生徒をめぐり、首都圏と近畿圏にある私立女子中学校・高校のうち、少なくとも14校が受験や入学を認めるかどうかを検討していること」が、同紙の実施したアンケートから明らかになったとのことです。たとえば、奈良の奈良文化高校は、アンケートに対して、「認める方向で支障がないかどうか協議を始めている」と答え、「令和8年度入学者の入試に向けて検討している」とのことです。しかし、それはとても危険で、無責任で、乱暴な発想であると私たちは考えます。
思春期の不安定さとリスクに配慮してください
まず、思春期はきわめて精神的に不安定な時期であり、実際には性同一性障害でないにもかかわらず、性別違和を訴える事態が、諸外国の例を見ても頻繁に起こっています。そのほとんどは成人するまでに性別違和を訴えなくなります。そのような時期に、女性を自認する男子中高生の入学を認めることは、はなはだ無責任なことです。しかも、年齢からしてホルモン投与も外科手術もしていないわけですから、外見においても完全に男子である中高生が女子中高校に入ることを認めることになります。トイレや更衣室の使用を含め、そのことが、女子中高生にとってどれほどの脅威になるかを考えてください。
性同一性障害とトランスジェンダーは違います。トランスジェンダーの中には、昨今の一連の訴訟にも見られるように、身体の外観を変えないままでも法的性別を変更したい人たちも含まれます。そして、その多くは女性を性的対象にしているのです。そのような男子が「女子」として女子中高校に入ってくることの大きなリスクをきちんと評価してください。
また、その年代の子どもは性的衝動も強く、性的にも不安定であるにもかかわらず、社会的には責任のとれない年代でもあります。そして、被害を受けうる女子生徒もまた成長期であり、精神的にも身体的にも脆弱です。何か問題が生じた場合、その結果は甚大で、場合によっては生涯にわたるものになるでしょう。
女子生徒だけの空間を奪わないでください
たとえ直接的な被害が生じなくても、問題はあります。トランス自認の男子を生徒として受け入れれば、女子中高校はもはや女性専用の空間ではなくなります。女子だけのスポーツも存在しなくなります。常に、男子である生徒の存在やその視線を意識することになり、男子と競わされることになります。それは、女子中高校の理念と存在意義の否定につながります。女子だけの空間や、女子だけのスポーツを否定した制度を取り入れた諸外国で何が起きたのか、きちんと調べてください。
あえて女子中高校を選ぶ生徒の中には、性的虐待の被害者が含まれている場合もあるかと思えます。そういう女子生徒にとって、男子生徒と日常生活を送らなければならないのは、大きな苦痛であることは十分想像できます。彼女たちにとって女子生徒だけの空間は文字通り死活問題です。
中高生という時期は、身心の変化が大きい時期です。トランスを自認して入学した生徒が「実は単なる男子でした」ということは十分に起こりうることです。女子中高校であるにもかかわらず、単なる男子中高校生に対応することになるという覚悟を持つことが、教師の側にも必要になりますが、はたしてどのくらいの先生方がそのことを予想しているでしょうか。
「やさしさ」と「個性」を表面的に理解しないでください
トランスを自認する男子を受け入れることで、当該女子中高校に「先進性」や「やさしさ」という付加価値がつくとお考えかもしれませんが、それはまったく表面的なものの見方です。そのような「価値観」はただ、社会全体がかつても今もそうであるように、女子が男子の意向や気持ちを一方的に尊重しそれに従う風潮をただ繰り返すだけです。
また、「個性はさまざまで、人は性別にかかわらず自由に生きてよい」というメッセージを、「性別は変えられる、それが自由な生き方だ」というメッセージと同時に学校が発するのであれば、かならず矛盾をきたします。性別に関わらず自由であるならば、性別を変えることなく、自由な服装や生き方を選択するべきであり、共学の学校でその自由を行使するべきです。女の子らしいとされている格好や遊びが好きであるという理由で男子を「女子」とみなすことは、特定の格好や遊びを女性という性別に結びつけることであり、性別に関わらず自由であるというメッセージに真っ向から反します。
女子生徒に誤ったメッセージを発しないでください
学校側が「性別は変えられる」というメッセージを発することは、すでに入学している女子中高生にも大きな悪影響を与えることになるでしょう。女の子らしいとされている格好や遊びが嫌いな女の子、あるいは同性を好きになる女の子は、実は間違った体に生まれた男の子であるという誤った思い込みを植えつけることになります。そのことで、自分の乳房をなくしたがったり、生理を止めたがったりする生徒が出ることも、想像にかたくありません。ROGD(急速発症性性別違和)という言葉をご存じでしょうか? 思春期で性別を変えたがる女子は、仲良しのグループ内でその考えを深め合って、集団で性別移行を志向するようになります。海外ではこのような事例が多数出現し、多くの女の子たちが不可逆的な身体改変をしてしまい、後になって深く後悔する事例があいついでいます。
「女性とは何か」について、服装や化粧や趣味のような表面的なものだと女子生徒に勘違いさせてはいけません。自分の女性としての身体を肯定し、その身体と折り合いをつけながら、人としては男性と対等であり、平等に扱われる権利があると考える女子生徒を育ててください。そのためには、自認が何であれ男子生徒のいない環境が、女子中高校には絶対に必要なのです。
大学と中高校とは違います
一部の女子大学がトランス自認の男子学生を受け入れつつあることが、今回の受け入れ姿勢の背景にあると思いますが、中高生の時期は大学よりもはるかに精神的にも身体的にも不安定であり、学ぶべきこともずっと多いことを理解してください。
そして、中高校は、大学がそうである以上に、現実の生活の場であり、成長の場です。男子のいない空間でのびのびと過ごし、学びたいと思う女子が多いことは、女子校の先生方ならばよくご存じのはずです。男子からの性的なおびやかしや脅威のない場で学びたい、男子からの視線や評価を感じることなしに部活をしたり日常生活を送りたい、だから自認が何であれ男子生徒がいるのは怖い、違和感がある、緊張が強いられる――そう思う女子生徒たちの側に立ってください。彼女たちの気持ちにこそ寄り添ってください。
議論になっているのは、個々のトランス当事者を否定するということではありません。現在の男性中心社会の中で、男性から自立してものを考え、行動する女性の人材を育てることこそ、女子校の重要な役割です。女子中高校に、トランスを自認する男子中高生を受け入れることは、そうした役割を自ら否定することを意味します。そして、女子中高校にいる女性生徒全員に対する侮辱であり、危険にさらすことをも意味します。女子生徒たちの安全と尊厳をどうか守ってください。女子中高校の役割と意義の原点に立ち返ってください。
なお、関連する資料を同封しましたので、ぜひそれも参考にしてください。
2024年2月19日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃