【当会独自案】GID 特例法改正案(23年11月20日付)

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の一部を改正する法律案

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成十五年法律第百十一号)の一部をそれぞれ次のように改正する。


 「第一条 この法律は、性同一性障害者に関する法令上の性別の取扱いの特例について定めるものとする。」を以下のように改正する(下線部が改正個所)。

第一条 この法律は、基本的に生物学的性別に基づいて成立している法秩序および社会秩序を著しく乱さない程度および範囲において、また全ての国民が安心して生活することができることを当然の前提として、性同一性障害者に関する法令上の性別の取扱いの特例について定めるものとする。

 「第二条 この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。」を以下のように改正する(下線部が改正個所)。

第二条 この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己の生物学的性別に特有の身体的特徴に対する強い違和を持続的に感じ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき、少なくとも一年以上にわたる継続的な診察を通じてその診断が一致しているものをいう。ここで言う「継続的な診察」とは、少なくとも月1回以上の診察をいう。

 「第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
……
 四 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
 五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。」を以下のように改正する(下線部が改正部分)

第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
……
 四 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
 五 現に犯罪歴がなく、また刑法及びその他の犯罪の逮捕状の対象でないこと、又は逮捕後の拘留中でないこと、又はそれに係る裁判の被告人でないこと。

 同法の第五条として、以下を追加する。

(性別取扱いの変更の取消し)

第五条 性別の取扱いの変更の審判を受けた者が、暴力犯罪又は性犯罪等の重大な犯罪行為を犯して三年以上の実刑判決が確定した場合、法務省は、性別の取扱いの変更の取消しを家庭裁判所に求めることができ、家庭裁判所は性別の取扱いの変更を取り消すことができる。

 二 性別の取扱いの変更の審判を受けた者が、性別の取扱いの変更の取消しを法務省に申請し、かつその申請に十分合理的な理由がある場合、法務省は、性別の取扱いの変更の取消しを家庭裁判所に対して求めることができる。

 三 前項の一及び二の規定は、法律に別段の定めがある場合を除き、性別の取扱いの変更取消しの審判前に生じた身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない。

 四 家庭裁判所の審判によって性別の取扱いの変更が取り消されて、元の性別に取扱いが戻った場合、再度の性別の取扱いの変更を申し立てることはできないものとする。

 (施行期日)

 この法律は、公布の日より施行する。


説明

総論

 2023年10月25日の最高裁判所大法廷において、現行特例法の第三条第四号(生殖腺の切除を規定したいわゆる四号要件)が身体に対する侵襲性が著しく、憲法第一三条に反するとの理由で違憲の決定が下され、同条第五号(性器の外観を他の性別に近似させたものにするといういわゆる五号要件)については広島高裁に差し戻した。それと同時に、裁判長は同決定の補足意見として、同法に別の要件を加えることを是としている。以上に鑑み、身体に対する侵襲性とは別の要件を加える法改正を行なうことは、今回の最高裁大法廷の決定に沿ったものであると言える。他方で、この法律をめぐっては、女性や子供の人権と安全を危惧する立場から、さまざまな疑問や不信が多数表明されており、現状のままでこの法律を維持することはとうてい不可能になっている。そこで、ごく一部の小手先の改正をするのではなく、憲法の理念と、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」の第12条で定められた「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意する」に基づいて、抜本的な改定が必要である。



第一条の改正について

 すでに新聞などの報道で、「心は女性」と称する身体男性が女子トイレや女性用の浴場に入るという事態が頻発しており、女性や子供をはじめとする国民の安心・安全を脅かしている。このような事態は、この法律の制定時には想定されなかったものであり、この法律の正当性そのものを脅かすものである。この法律は、性同一性障害者が自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させていることを前提に、その人々が社会生活をスムーズに送るためのものであるが、それはあくまでも特例であって、基本的に生物学的性別にもとづいている法的・社会的秩序を乱さない範囲で認められているにすぎないのであり、すべての国民の安心・安全をいささかでも脅かすものであってはならないという基本理念を、最初の条項で明文上確認しておく必要がある。


第二条の改正について

 この法律は本来、性同一性障害という特殊な疾患を有している者のみを対象にし、その救済を目的としたものであって、単に性別を変えたい人や、別の性別で生活したい人のためのものではない。先に述べた報道などで問題になっている事例の多くは、実際には性同一性障害ではないにもかかわらず、性同一性障害の診断書を安易に得ている者によって行われていると推測することができる。そこで、既存の規定に加えて、性同一性障害者として「自己の生物学的性別に特有の身体的特徴に対する強い違和を持続的に感じ、」の一節を入れるというように基準をより厳格なものにした。また、現代の医学的知見においては、うつ病や自閉症、その他の精神疾患や発達障害等によって性別違和が生じうることが明らかになっているにもかかわらず、現在、15分から20分程度の簡単な診察で性同一性障害の診断書を発行する無責任なクリニックも少なからず存在している。こうした状況を踏まえて、少なくとも一年以上にわたる継続的な診察が必要であるとの文言を追加している。これは、この法律の立法目的を満たし、医療上の不備をなくすという点で必要かつ最小限の改正であると思われる。


第三条の改正について

 先の最高裁大法廷は、第三条第四号を身体に対する侵襲性が著しく、憲法一三条に反するとの判断を下したので、第四号を削除することはやむをえない改正である。しかしながら、それと同時に、大法廷の裁判長は補足意見において、侵襲性とは別の要件を加えることを是認している。以上の点を鑑みて、現行特例法の第四号を削除して、現行特例法の第五号をそのまま第四号にするとともに、新たに第五号として、「五 現に犯罪歴がなく、また刑法及びその他の犯罪の逮捕状の対象でないこと、又は逮捕後の拘留中でないこと、又はそれに係る裁判の被告人でないこと」という要件を付け加えることにした。

 まず、現行特例法の第五号を第四号として残したのは、女性と女児の安心・安全や公序良俗の維持のためには引き続き必要不可欠な要件であるからである。またそれは、外性器に関わるので、内性器の切除に関わる第四号と比べて、侵襲性は相対的に低いというべきである。また、すでに述べたように、この法律は、強い身体違和を持ち、「自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者」を対象とするものであるから、陰茎という典型的な男性器を保持しても身体違和を感じない者は、そもそも、性同一性障害者を救済対象としたこの法律の対象ではないというべきである。さらに、現行特例法の第四号と第五号の両方を削除した場合、未成年の子がいない者は、医師の診断書さえ取得できれば、身体に何の変更も加えることなく法的取扱いを他の性別に変えうることになり、基本的に生物学的性別に基づいている法秩序と社会秩序を著しく乱すことになるだろう。

 新たに第五号を入れたのは、犯罪歴のある者が、その過去を隠蔽するために安易に性別変更できることになれば、国民の安心・安全が確保できないことは自明なためである。また、現に何らかの犯罪で逮捕状の対象であったり、拘留中であったり、裁判中であったりしても、国民の安心・安全を守れないことは明らかである。諸外国の例を見ても、犯罪者が自己の犯罪歴を隠すために性別変更を申し立てる事例が見られる。とくに、手術要件が廃止された諸外国では、性犯罪者が実刑での有罪確定後に、女子刑務所に移送される目的で、自分の心は女性だと言い出す場合も多い。そして、そうした人物が男性機能を保持したまま女子刑務所に移送されて、女子刑務所で強姦ないし性暴力を起こした事例も多数存在する。そうした可能性を未然に防ぐためにも、この新たな規定は必要不可欠である。


第五条について

 この法律は、性別の取扱いを他の性別に変える規定は存在するが、その変更を取消して、性別の取扱いを元の性別に戻す規定が存在せず、この点は同法の重大な欠陥であると考えられる。そこで、第五条を新たに創設し、次の2つの場合に、法務省が家庭裁判所に対して性別の取扱いの変更の取消しを求めることができることとした。第五条第一項として、性別の取扱いの変更の審判を受けた者(以下、当人)が、何らかの重大な犯罪行為を犯して三年以上の実刑判決が確定した場合、第五条第二項として、当人自身が性別の取扱い変更の取消しを法務省に申請し、その申請に十分に合理的理由がある場合。
 
 第五条第一項について もし当人が裁判で有罪の実刑判決を受けた場合、現行法の下では、生物学的性別にもとづいた刑務所に入るのではなく、他の性別の刑務所に入ることになる。たとえば、実刑になるような重大な犯罪を犯した生物学的男性が女子刑務所に入ることになったら、他の女性受刑者の安心と安全を著しく脅かすことになるのは明白である。四号要件だけでなく、もし現行法の五号要件も違憲となったら、男性器を完全に保持したままで、法的取扱いが「女性」になれる男性が発生する。そのような人物が女子刑務所に収監されることを目的として凶悪犯罪をあえて犯す可能性は否定できない。そうした可能性を未然に防ぐためには、実刑を課せられるような重大な犯罪を犯した場合には、性別の取扱いの変更が取り消されるという規定を設ける必要がある。また逆に、現行法の四号要件が違憲となっている現在、女性としての生殖機能を残したまま性別の取扱いを男性に変更することができるが、そうした者が何か重大な犯罪を犯して実刑となり、男子刑務所に収監された場合、今度は、その当人の安心と安全が著しく脅かされるのは明白である。

 以上の点に鑑み、重大な犯罪を犯して、実刑判決が確定した者については、性別の取扱いの変更の取消しを求めることができるようにすることが必要である。だが、実刑判決であれば無条件に性別の取扱いの変更を取り消すというのも極端であるから、重大犯罪かどうかの一つの基準である三年以上の実刑判決が確定した場合に、性別の取扱いの変更の取消しを求めることができるとした。法務省は、性別の取扱いの変更を済ませた者が三年以上の実刑の有罪判決を受けた場合、すみやかに、性別取扱い変更の取消しを家庭裁判所に申し立てる必要がある。三年未満であっても、犯罪者が他の性別の刑務所に収監される場合にはさまざまな問題が想定されるので、これは別途、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成十七年法律第五十号)」を改正することで対処する必要がある。

 第五条第二項について 第一項は、当人の意志に関わらず行なうことのできる取消しだが、当人自身が性別の取扱いの変更の審判を受けた後で、そのことを深く後悔し、元の性別に戻りたいと思うかもしれないし、実際にそういう事例は少なからず存在する(外国ではいっそう多い)。とくに、すでに四号要件が違憲となって、すでに戸籍上の性別変更がより容易になっており、さらに現行法の五号要件まで違憲となれば、いっそう戸籍上の性別変更が容易になる。その場合、安易に性別変更の申し立てをして、性別変更を実現したものの、そのことを後悔する事例はいっそう多くなるだろうし、診断の誤りが後になってわかることもあるだろう。とくに身体的に元の性別の生殖機能や性器を残している場合、年齢を重ねることで子宮や卵巣などがガンやその他の病気になる可能性も十分予想される。そうした場合に備えて、元の性別に戻す可能性を保障するべきである。したがって、元の性別に戻す理由が十分に合理的であるかどうかを精査したうえで、法務省が性別取扱いの変更の取消しを求めることができることとした。当人ではなく、あくまでも法務省が変更取消しを求めるとしたのは、安易に、あるいは犯罪歴の隠蔽のために元の性別に戻すことを防ぐためである。

 第五条第三項について これは、性別取扱いの変更の審判に際して同様の規定があるので、変更を取り消した場合も同様の規定を設けたものである。

 第五条第四項について いったん、法的な取扱いを元の性別に戻した場合は、再度、他の性別への変更を申し立てることはできないとした。安易かつ恣意的な性別の取扱い変更ができないようにするためである。

2023年11月20日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会代表
石上卯乃

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