「しんぶん赤旗」編集局長 小木曽陽司様
「しんぶん赤旗」記者 武田恵子様
埼玉県の「性の多様性を尊重した社会づくり条例」は、2022年6月の埼玉県議会で採択され、同年7月8日から施行されています。この条例は、自民党埼玉県支部連合(以下、自民党埼玉県連)が積極的に推進してきたもので、自民党埼玉県連による条例骨子案(以下、条例案)に対して、私たちの会はいくつかの懸念を正式の文書の形で自民党の埼玉県連に伝えました。最大の問題は、その骨子案の中に、意味のまったく曖昧な「性自認」という文言が入っていたことです。
当時、自民党埼玉県連は県民および国民に対してパブリックコメントを募集していたので、私たちの会だけでなく、草の根の多くの女性たちや性的マイノリティの当事者たちがこの条例案に対する反対意見を寄せました。2022年6月24日付『デイリー新潮』の記事によると、この一自治体の条例案に対して、4747件もの大量のパブリックコメントが寄せられ、その87%にあたる4120件が批判的な意見ないし反対意見だったとのことです。これらの反対意見の多くが、同性間のパートナーシップに対するものではなく(私たちの会の意見書もパートナーシップ制度に対しては一言も触れていません)、「性自認」やそれに基づく差別の禁止規定に対するものであったと考えられます。先に触れた『デイリー新潮』の記事でも、関係者の話として、次のように書かれているところからも、それはうかがえます――「関係者によると、反対の意見を出した人の中には性的マイノリティの人も少なくなく、『性自認』という文言への疑問や、『不当な差別的取り扱いをしてはならない』などの表記に対する懸念が多く寄せられたという」。
しかしながら、2022年10月2日付『しんぶん赤旗』の記事「パートナーシップ制度と統一協会」(下)には、この埼玉県条例案に対して4000件以上の反対意見が寄せられたことには一言も触れず、その代わりに次のようなことが書かれています。
「今年7月に制定された埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例に対し、反社会的カルト集団・統一協会(世界平和統一家庭連合)は、条例が成立すれば、「男女を前提にした性秩序や家庭の破壊につながる」「トイレなど『女性の空間』 に『女性』を自称する男性が入り込む」(「世界日報」6月21日付)と攻撃しました。」
記事では、同条例案に反対意見を出した人がみな統一協会であるとはさすがに書いていませんが、この記事だけを読んだ読者は、この条例案に寄せられた反対意見を代表するもの、あるいはその主たるものが、『世界日報』に掲載されたこの統一協会の「攻撃」であるとの印象を受けることでしょう。これは、この条例案に反対意見を寄せた数千人の女性たちや性的マイノリティ当事者たちの存在を無視し、これらの人々に対する偏見や悪意を持たせる印象操作だと言われても当然ではないでしょうか。私たちはこのことに強い抗議の意思を表明します。
私たちをはじめ、条例案に反対意見を寄せた人々の大多数は統一協会と何の関係もない人々であり、むしろ統一協会に批判的な立場を取っています。この記事のことが知られるようになると、ツイッター上ではたちまち、このことに強い抗議の意思を表明する何千ものツイートが投稿され、「#私たちは統一教会じゃない」というハッシュタグがトレンド入りしたほどです。
また、そもそも、「トイレなど『女性の空間』に『女性』を自称する男性が入り込む」懸念を表明することそれ自体はけっして「攻撃」と呼ぶべきものではありませんし、その懸念を他の誰かが表明したからと言って、そのことで統一協会と同じ立場になるわけでもありません。たとえば、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐって、ある県が実施したウクライナ難民支援のクラウドファンディングに統一協会からの寄付があったとメディアで報じられていますが、ウクライナ難民支援に寄付をした他の市民の行為が統一協会と同じものになるわけではないのと同じです。
さらに『しんぶん赤旗』の記事には続けて、「レインボーさいたまの会は、一部メディアや団体からの差別や偏見をあおるやり方が当事者の抱える困難の解消を阻むことを危惧」とあります。しかし、「一部メディアや団体からの差別や偏見をあおるやり方」とはいったい具体的に何を指しているのでしょうか。条例案に対する市民の懸念はすべて「差別や偏見をあおる」とでも言いたいのでしょうか。むしろ、この記事の書き方こそが、「性自認」の濫用を懸念する女性たちや性的マイノリティ当事者への「差別や偏見をあおるやり方」ではないでしょうか。
件の記事は、統一協会をめぐるシリーズ記事の一環であり、したがって主として統一協会の見解が取り上げられるのは当然です。しかしながら、統一協会とはまったく無関係で、それとは正反対の立場からこの条例案に反対した多くの市民が存在するわけですから、その事実にいっさい触れず、統一協会が反対したとだけ書くことは、きわめて不当で、配慮に欠けたものです。
『しんぶん赤旗』は真実を報道する新聞として高く評価されており、統一協会問題でもきわめて先駆的な役割を果たしたことは、私たちもよく理解しています。それだけに、今回の埼玉県条例に関して、多くの一般女性たちや性的マイノリティ当事者からの異論や批判、懸念が出されたこともきちんと報道するべきであったと考えます。ぜひとも、これを機会に、「#私たちは統一教会じゃない」というハッシュタグのついたツイートに目を通してください。そして、女性たちの悲痛な訴えに耳を傾けてください。
2022年10月17日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃、桜田悠希
メールアドレス:no.self.id.jp@gmail.com