READYFOR株式会社 代表取締役 CEO 米良はるか様
READYFOR株式会社 代表取締役 COO 樋浦直樹様
私たちは「NO! セルフID 女性の人権と安全を守る会」という市民団体です。私たちは、女性と子どもの人権と安全、そして表現の自由と民主主義を守る立場から、クラウドファンディング企業READYFOR株式会社に対して、以下の抗議を行ないます。
貴社は、そのサイトにおいて「国内最大手」であることを強調し、「誰かのために立ち上がる人を応援するソーシャルNo.1クラウドファンディング」と謳っています。このような大手クラウドファンディング会社である貴社は、まさに「女性のために立ち上がる」プロジェクトである「電子書籍『#TERFと呼ばれる私達』を出版したい!」を中止に追い込みました。貴社は、同プロジェクトを事前審査でパスさせておきながら、そして、そのクラウドファンディングで目標額をはるかに上回る支援金が募集開始から1日足らずで集まったにもかかわらず(8月13日閲覧時点で、目標額21万円に対して64万9000円が集まっている)、つまりプロジェクトとして十分に成功を収めたにもかかわらず、トランス差別反対を唱える人々からの抗議を受けて、このプロジェクトの根幹にかかわる内容および文言の変更をプロジェクト提起者に迫りました。その結果、プロジェクト提起者は、抗議者たちからの攻撃がREADYFORの事務局員にまで及ぶことを心配し、プロジェクトを自ら撤回することを余儀なくされました。形式的にはプロジェクトの撤回ですが、実質的には、外部からの圧力とそれへの貴社の迎合によってプロジェクトそのものが中止に追い込まれたということです。
以上の過程と結果には、いくつかの点で重大な問題があると思われます。
第1に、事前審査で承認しておきながら、外部からの圧力に屈して、プロジェクトの根幹を揺るがすような改変をプロジェクト提起者に迫ったことです。これはもちろん、このクラウドファンディング企業に対する市民の信頼を大きく損ねるものですが、単に、一企業と消費者との関係にとどまらない問題をはらんでいます。クラウドファンディングとは基本的に、大手の企業や公的機関からは対象外とされるような小規模で将来性の未知なプロジェクトに対して、一般市民から資金を募って事業として出発させようとする試みです。クラウドファンディング企業はその試みを仲介し、手数料を取ることで成り立っています。ところが、そのクラウドファンディング企業による事前審査を通っているにもかかわらず、つまり、同企業による倫理規定を含むさまざまなハードルをクリアしているにもかかわらず、外部からの一方的な圧力に屈することは、市民のそうした草の根の試みを阻害し、クラウドファンディング企業としての根本理念を否定するものです。このようなことがまかり通れば、クラウドファンディング企業に圧力をかけることのできるあらゆる外部勢力の好むプロジェクトしかクラウドファンディングの仕組みを利用できなくなるでしょう。これはクラウドファンディングという仕組みが目指していたはずの「多様性」そのものを自ら否定することに他なりません。
第2に、「性自認に沿ったスペースの利用の否定」を「差別的な表現」と断じていることです。READYFOR事務局が今回の件で同プロジェクトへの支援者に宛てて送ったメールには、「プロジェクトページにおいて、トランスジェンダーの方々の性自認への配慮を欠くなどの差別的な表現であるなど当社として不適切と考える表現が複数存在した」として、「プロジェクトページの全文を削除する」措置を取ったと述べています。では何が「差別的な表現」なのでしょうか? 事務局のメールは、その一例として、「女性用・男性用と分かれている施設・スペースについて、性自認に沿ったスペースの利用を否定する……ことは、その方の性自認を尊重しない姿勢として評価されると考えます」としています。つまり、男女別の施設で「性自認に沿ったスペースの利用を否定する」ことが容認できない差別だというわけです。しかし、男女で分かれている施設(公衆トイレ、公衆浴場、更衣室、刑務所など)において、「性自認に沿ったスペースの利用」(つまり、身体が男性のままでも性自認が「女性」なら女性用のトイレ・公衆浴場・更衣室等を利用すること)を認めている法律は、今のところ日本には存在しません。にもかかわらず、「性自認に沿ったスペースの利用を否定する」ことが、総じて差別であり、クラウドファンディングに値しないというのは、まったく法的根拠のない恣意的な基準を一方的に押しつけるものであると言わざるをえません。
第3に、性別で区切られたスペースそのものの必要性を否定していることです。READYFOR事務局は同じメールの中で、「防犯・治安維持の観点」や「シスジェンダーの女性が抱く恐怖心への配慮も重要」と言いながら(「シスジェンダー」という表現そのものが侮辱的ですが)、その対案として「そもそも女性用・男性用の区別をなくす」ことを提案しています。これは、トイレの男女区別をなくしてすべて個室トイレにすることを念頭に置いていると思われます。しかし、女性用スペースはトイレだけではありませんし(それとも公衆浴場や刑務所もすべて男女の区別をなくして個室にせよということでしょうか)、そもそも、個室トイレでは女性の安全は守られません。直接に排泄する場だけでなく、それらの個室を含む全体としての女性専用の空間が確保されなければ、女性の安全は守られないし、安心して社会生活を送ることもできなくなります。
第4に、「性自認が女性であるだけで女性」という極端な思想をもとに当該プロジェクトの意義を否定したことです。事務局はメールの中で、プロジェクトページにあった「女性の安全」や「女性の人権」、「女性に関することは女性の声を聞いてほしい」などの表現に対して、「性自認が女性であるだけでは『女性』ではないという前提に立っており、性自認の尊重に欠く差別的な表現と考えます」と書いています。まったく驚くべき非難です。まずもってREADYFORのサイトに記載されている他のプロジェクトでも「女性」という言葉は頻繁に使われており、その中に「性自認が女性であるだけ」の人が含まれているかどうかは不明です。女性の健康や妊娠出産、生理についてのプロジェクトも多数存在しますが、それらにおける「女性」という言葉が示すのは、明らかに、女性として生まれた女性のことです。今回の件でREADYFOR事務局が主張している「性自認が女性であるだけで女性である」という思想は、きわめて偏ったごく一部の人々だけが信奉しているものです。にもかかわらず、あたかもそれが公理であるかのように扱って、「女性の安全」「女性の人権」と書いてあるだけでそれを「差別」とみなすのは、異様であると言わざるをえません。これは特定の思想信条にもとづいて、それとは異なる思想信条を排除し抑圧するものです。そして何よりそれは、「女性の安全と人権」それ自体を差別とみなすものであって、最も直接的であからさまな女性差別であると言わざるをえません。
以上、見たように、貴社が、「電子書籍『#TERFと呼ばれる私達』を出版したい!」というプロジェクトを中止に追い込んだことは、市民の正当な権利と多様性を否定し、思想信条の自由を侵害し、女性の安全と人権を深刻に脅かすものです。私たちはそのことに厳重に抗議するとともに、READYFOR運営者に対して、今回のプロジェクトに対する「トランス差別」という不当な非難を撤回し、プロジェクトを中止に追い込んだことに関してプロジェクト提起者とその支援者全員に真摯な謝罪をするよう強く求めます。
2022年8月13日
No! セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃、桜田悠希