NHK神戸放送局 局長 伊藤 綱太郎 様
NHK神戸放送局(以下、貴放送局と略記)によって2022年2月28日に放送され、同時にウェブ記事となった「甲南大の学生がトランスジェンダーへの偏見なくそうと動画制作」(https://archive.ph/20220305231157/https://www3.nhk.or.jp/lnews/kobe/20220228/2020017271.html ウェブアーカイブ)において、甲南大学の学生である有志5人がトランスジェンダーへの偏見をなくそうと動画制作をしたことが報じられています。私たちはもちろん、誰であれトランスジェンダーであることを理由に不当な差別を受けることがあってはならないと考えていますし、トランスジェンダーへの偏見をなくすことに賛成です。しかしながら、貴放送局による放送および記事にはいくつか看過できない問題点がありますので、ここに公開にて質問をさせていただきます。
1.貴放送局の放送および記事の冒頭で、トランスジェンダーについて「心と体の性が一致しない」と説明されていますが、今回の啓発動画を作成した「甲南大学文学部社会学科 関ゼミ 0 期生」が試写会に向けて作ったチラシ(https://web.archive.org/web/20220217111435/https://www.konan-u.ac.jp/news/wp/wp-content/uploads/2022/02/public-relations-department-limited/20220217pressrelease.pdf ウェブアーカイブ)では、トランスジェンダーは「生まれた時に割り当てられた性別とは異なる性別で生きる人・生きることを望む人のこと」と説明されています。この2つの説明はまったく異なるものです。「心と体の性が一致しない」という説明においては「心の性」の存在が前提とされていますが、制作者側の説明では、「心の性」はまったく問われておらず、「異なる性別で生きる人・生きることを望む人」とされています。つまり、性同一性障害特例法の対象となる方だけでなく、たとえ自分が男性であると認識していても、一般に女性的とされている髪型(長い髪など)や服装(スカートなど)をして生活している人(たとえば女装男性)やそうしたいと望んでいるだけの人も「トランスジェンダー」だということです。そこで、以下の点についてお尋ねします。
(a)貴放送局は、自社の放送におけるこの説明と制作者側自身の説明とのこの食い違いについて認識されていましたか?
(b) 認識されていたとしたら、放送および記事において制作者側の説明と異なった説明をした理由についてお聞かせください
(c) 認識されていなかったとしたら、公共放送としてあるまじき失態であったことを認め、訂正の放送をする意思はありますか?
2.貴放送局の放送および記事において、トランスジェンダーに対する「差別的書き込み」ないし「誹謗中傷」の事例として、以下のものが判読可能な形で列挙されていました。
・わきまえない桜もち 同じ学部の長浜ほのかくんが女子トイレを使ってた。怖くてもう女子トイレを使えない。まじキモイ死んでほしい
・むいむい 身体が男なのに女子トイレに入って来るな!! 氏ね!!!
・まいまい 女性の恐怖も考えずに女子トイレに侵入してくる雄姿はまさに「男しぐさ」ですね!!
・森元太 トランス女性のケアを女性に押し付けるな! 男子トイレを安心して使えるように男性が努力すべきです。#私たち男性はトランス身体男性が安心して男子トイレを使えるように努力します #ForXX
・金魚姫 トランス女性は生得的に男性である時点で生得的女性が受ける性被害を受けないんだから女子トイレを使う権利ないですよ
これらのインターネット上の「書き込み」とされているものは、制作者側で作成されたものであると推察することができますが、それらに関して以下お尋ねします。
(a) 上の5つの「書き込み」の中で冒頭2つ(「わきまえない桜もち」「むいむい」)において「まじキモイ死んでほしい」とか「氏ね!!!」という脅迫的文言が書かれていますが、トランスジェンダーに対してそれに類する脅迫的言辞が実際にインターネット上にあったと貴放送局で確認されておりますでしょうか? もし確認されている場合はその具体例の提示をお願いします。
(b) もし確認されていない場合、実際には存在していないそのような脅迫的文言をわざわざ作文することは、存在しない差別を捏造することになるのではありませんか? もしそうはならないとお考えなら、その理由をご説明ください。
(c) 存在しない差別憎悪表現を作り出して作品に入れ、女性を差別者扱いすることこそ、女性差別を促進することなのではありませんか? もしそうはならないとお考えなら、その理由をご説明ください。
(d) 残る3つの「書き込み」(「まいまい」「森元太」「金魚姫」)についてですが、これらの書き込みがいかなる意味でトランスジェンダーに対する差別に相当するのか、具体的にご説明ください。
(e) 最後の「金魚姫」の「書き込み」における「トランス女性は生得的に男性である」という文言について、これは科学的事実であるとお考えですか、それとも科学的事実に反するものとお考えですか? もし後者の場合、その根拠となる科学的知見についてご説明ください。
3.貴放送局による放送および記事で「大学の女性用トイレを使用したトランスジェンダーの学生が『身体が男なのに女子トイレに入るな』などと投稿をされ、思い悩む様子が描かれています」とありますが、貴放送局は、身体が男性のままであっても女子トイレを使うことは正当であるとお考えですか? そうお考えになる場合、その理由についてご説明ください。また、それに対して女性が抱く不安や恐怖心、被侵襲感は、トランスジェンダーに対する差別であるとお考えですか? もしそうお考えになる場合、その理由についてもご説明ください。
4.インターネット上では、トランスジェンダーに対する脅迫的文言ではなく、逆にトランスジェンダーあるいはそのアライと称する人々による、女性への脅迫的文言が少なからず存在しています(もしその具体例を知りたいということであれば、非公開の形で提供させていただきます)。女性に対するこれらの脅迫的文言は女性差別を構成するとお考えですか? もしそうでないと考えるなら、その理由についてご説明ください。
以上の質問に対して、3月25日までに公開の形でか、あるいは私たちの会への電子メールという形での回答を求めます。なお、回答されたものは、私たちのウェブサイト(https://no-self-id.com/)で公開させていただきます。また、期日までに回答がなかった場合も、そのことを私たちのサイトで報告させていただきます。
2022年3月10日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
共同代表 石上卯乃、桜田悠希
この質問状は郵送いたしました。
又、この件について以下の公開質問状を次の宛先にも送りました。