『神戸新聞』3月1日付記事「トランスジェンダーへの差別、大学生がミニドラマに 甲南大生『SNSでの攻撃、残酷さ描いた』」に関する公開質問状

神戸新聞社代表取締役社長 高梨 柳太郎 様

 神戸新聞(以下、貴紙と略記)の2022年3月1日付の記事「トランスジェンダーへの差別、大学生がミニドラマに 甲南大生『SNSでの攻撃、残酷さ描いた』」(https://www.kobe-np.co.jp/news/kobe/202203/0015099253.shtml)(網島葉名記者)(以下、記事と略記)において、トランスジェンダーの人に対するインターネット上での差別を解消しようと、甲南大学社会学科の学生有志が人権啓発動画を作ったと報じられています。私たちはもちろん、誰であれトランスジェンダーであることを理由に不当な差別を受けることがあってはならないと考えていますし、トランスジェンダーへの偏見をなくすことに賛成です。しかしながら、今回の記事には、看過できないいくつかの問題点がありますので、ここに公開で質問をさせていただきます。

1.記事の冒頭で、トランスジェンダーについて、「出生時の性別と自認する性別が異なる人」と説明されていますが、今回の啓発動画を作成した「甲南大学文学部社会学科 関ゼミ 0 期生」が試写会に向けて作ったチラシ(https://web.archive.org/web/20220217111435/https://www.konan-u.ac.jp/news/wp/wp-content/uploads/2022/02/public-relations-department-limited/20220217pressrelease.pdf ウェブアーカイブ)では、トランスジェンダーは「生まれた時に割り当てられた性別とは異なる性別で生きる人・生きることを望む人のこと」と説明されています。この2つの説明はまったく異なるものです。「出生時の性別と自認する性別が異なる人」という説明においては「自認する性別」の有無が決定的な要件となっていますが、制作者側の説明では、「自認」はまったく問われておらず、「異なる性別で生きる人・生きることを望む人」とされています。つまり、性同一性障害特例法の対象となる方だけでなく、たとえ自分が男性であると自認していても、一般に女性的とされている髪型(長い髪など)や服装(スカートなど)をして生活している人(たとえば女装男性)やそうしたいと望んでいるだけの人も「トランスジェンダー」だということです。そこで、以下の点についてお尋ねします。

(a) 貴社は、記事におけるこの説明と制作者側自身の説明との食い違いについて認識されていましたか?

(b) 認識されていたとしたら、記事において制作者側の説明と異なった説明をした理由についてお聞かせください

(c) 認識されていなかったとしたら、神戸新聞のような歴史と伝統のある新聞の記事としてあるまじき失態であったことを認め、訂正文を出す意思はありますか?

2.貴社の記事において、「ジェンダー問題に関心を持つ学生5人が社会学科講師、関めぐみさんの指導を受けながら、台本作成や出演、撮影、編集などを全て行い、仕上げた」とあります。したがって、動画でトランス差別ないし誹謗中傷として取り上げられた各種投稿に関しても、制作者側で作成されたものであると考えることができます。そこで、以下質問をさせていただきます。

(a) トランス差別的ないし誹謗中傷とされた投稿には、この動画について報じたNHKの放送および記事(https://archive.ph/20220305231157/https://www3.nhk.or.jp/lnews/kobe/20220228/2020017271.html ウェブアーカイブ)によりますと、「まじキモイ死んでほしい」とか「氏ね!!!」という脅迫的文言が含まれていますが、トランスジェンダーに対してそれに類する脅迫的言辞が実際にインターネット上にあったと貴社で確認されておりますでしょうか? もし確認されている場合はその具体例の提示をお願いします。

(b) もし確認されていない場合、実際には存在していないそのような脅迫的文言をわざわざ作文することは、存在しない差別を捏造することになるのではありませんか? もしそうはならないとお考えなら、その理由をご説明ください。

(c) 存在しない差別憎悪表現を作り出して作品に入れ、女性を差別者扱いすることこそ、女性差別を促進することなのではありませんか? もしそうはならないとお考えなら、その理由をご説明ください。

(d) それ以外にも、「女性の恐怖も考えずに女子トイレに侵入してくる雄姿はまさに「男しぐさ」ですね!!」、「トランス女性のケアを女性に押し付けるな! 男子トイレを安心して使えるように男性が努力すべきです」、「トランス女性は生得的に男性である時点で生得的女性が受ける性被害を受けないんだから女子トイレを使う権利ないですよ」などの書き込みも、トランスジェンダーに対する差別ないし誹謗中傷時の事例とされていますが、これらの発言のどの点が、どのような意味でトランスジェンダーに対する差別に相当するのか、具体的にご説明ください。

(e) また、「トランス女性は生得的に男性である」という文言について、これは科学的事実であるとお考えですか、それとも科学的事実に反するものとお考えですか? もし後者の場合、その根拠となる科学的知見についてご説明ください。

3.貴社による記事で「大学生活を送るトランスジェンダーの女性が、女子トイレから出てくる写真を『気持ち悪い』という言葉とともにSNSに投稿されるなどし、思い悩む姿を描く」とありますが、トイレから出てきたところを写真に撮られて、「気持ち悪い」という言葉とともにSNSに投稿され事例が実際にあったという認識でしょうか? もしそういう事例があったのなら、それについて具体的にご指摘ください。もしなければ、ありもしない盗撮事件を捏造して、女性を差別者に仕立て上げることは、女性に対する差別を構成するものではないですか? もしそうでないと思われるのなら、その理由についてご説明ください。

4.この動画は、身体が男性のままのトランスジェンダーが女子トイレを使うことを正当化する内容のものであると推察できますが、貴社は、身体が男性のままであっても女子トイレを使うことは正当であるとお考えですか? そうお考えになる場合、その理由についてご説明ください。また、それに対して女性が抱く不安や恐怖心、被侵襲感はトランスジェンダーに対する差別であるとお考えですか? もしそうお考えになる場合、その理由についてもご説明ください。

5.インターネット上では、トランスジェンダーに対する脅迫的文言ではなく、逆にトランスジェンダーあるいはそのアライと称する人々による、女性への脅迫的文言が少なからず存在しています(もしその具体例を知りたいということであれば、非公開の形で提供させていただきます)。女性に対するこれらの脅迫的文言は女性差別を構成するとお考えですか? もしそうでないと考えるなら、その理由についてご説明ください。

 以上の質問に対して、3月25日までに公開の形でか、あるいは私たちの会への電子メールという形での回答を求めます。なお、回答されたものは、私たちのウェブサイト(https://no-self-id.com/)で公開させていただきます。また、期日までに回答がなかった場合も、そのことを私たちのサイトで報告させていただきます。

2022年3月10日

No!セルフID 女性の人権と安全を求める会

共同代表 石上卯乃、桜田悠希


この質問状は、郵送いたしました。

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