日ごろの貴党の活動に敬意を表します。私たちは、2021年9月に結成された「No! セルフID 女性の人権と安全を求める会」と申すものです。今回、日本の今後を左右する第49回衆議院選挙が今秋に行なわれることを鑑みて、人口の半分を占める女性の人権と安全にかかわる質問をさせていただきます。10月20日までにしかるべき回答を寄せていただければありがたく存じます。
質問と回答については、私たちのサイト(https://no-self-id.com/)で公表させていただく所存です。
1.十人以下の小規模事業所における男女共用トイレに関する厚生労働省の方針について
厚生労働省が2021年6月28日に発表した「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令案概要」において、現行の「事務所則第17条第1項」を改訂して、「同時に就業する労働者が常時十人以内である場合は、現行で求めている、便所を男性用と女性用に区別することの例外として、独立個室型の便所を設けることで足りることとする」と提案しています。この事実がインターネットで知られると、わずか3日ほどの間に約1500件ものパブリックコメントが女性たちから寄せられ、その大部分が今回の改定に反対する内容のものでした。ところが、7月28日に開催された第139回労働政策審議会安全衛生分科会の議事録を見ますと、このような強い反対があったにもかかわらず、基本方針は変わっておらず、厚労省の方針に関して誤解がないよう通達で丁寧に周知していきたいとの厚労省側の立場が表明されています。そこで以下の質問をします。
質問1-① 厚労省のこの改訂案について貴党はすでに承知していましたか?
質問1-② この改訂案について、貴党はどのような立場をとっておられますか?
質問1-③ 女性の人権と安全および社会進出にとっての女性専用トイレの重要性について、貴党はどのようにお考えですか?
2.先の国会で提出が見送られたいわゆるLGBT理解増進法案について
先の国会の終盤において、与野党の議連総会で合意された「性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」(以下、LGBT理解増進法案)をめぐって世論を二分する大きな論争になり、結局、同法案は国会に提出されませんでした。今後、新しい国会において、何らかの修正を経たうえで提出される可能性は極めて高いと考えられます。
すべての人の人権尊重は民主主義社会の要であり、性的マイノリティの方々の人権は守られねばなりませんし、進学や就職や昇進、アパートの賃貸、医療や福祉の享受などの場面で不当な差別があってはなりません。それはまったく当然のことであり、そのことに向けた理解増進は必要な課題であると私たちは認識しています。しかしながら、与野党協議によって合意されたLGBT理解増進法案を見ますと、2つの懸念すべき点があり、これらの問題が解決されないかぎり、本当の意味で国民的な理解増進は進まないと思われます。
【懸念点1】「性自認」という言葉が使われていることで、この法の保護対象となる人々の範囲が曖昧にされている
この法案で用いられている「性自認」の定義は、その第二条「2」において「性同一性の有無又は程度」と規定されています。そして「性同一性」それ自体の定義はこの法案にはないとはいえ、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下、GID特例法)においてかなり厳格に規定されているので、それに準じた解釈がなされると予想されます。つまり、その第2条において、性同一性障害とは、(1)「生物学的性別がはっきりしているのにもかかわらず、別の性別であるとの持続的確信を持っている」こと、(2)「自己を身体的および社会的に他の性別に適合させようとする意志を有する」こと、(3)「その診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致している」ことといった何重もの規定にもとづいており、単に個人の自認や自己申告にもとづくものではありません。
しかし、先の国会の終盤にLBGT理解増進法案が大きな話題になったとき、メディアやLGBT団体における「性自認」の使われ方は、GID特例法で言う「性同一性」とは程遠く、単なる性別の自己認識(セルフIDと呼ばれるもの)になっていました。つまり、確信の持続性や、生殖器を含む身体の形状を変える意思や、2人以上の専門医の診断などにかかわりなく、単なる自認ないし自己申告による性別として理解されているように思われます。したがって、「性自認」という曖昧な言葉を用いたままでこの法律が成立すると、この法律の解釈が本来の趣旨から大きく離れ、単に自分は女性だと称する男性や、自分は男性だと称する女性をも保護対象にすることになりかねません。
【懸念点2】「性自認を理由とする差別は許されないもの」という文言が入ったことで、誤用される危険性がある
与野党との協議の結果、「性自認を理由とする差別は許されないもの」という文言が法の「目的」(第1条)と「基本理念」(第3条)のところに入りました。これは、憲法14条にもある一般的な規定を目的と理念のところで改めて確認したにとどまるものであると、この法案取りまとめの責任者であった稲田朋美氏は説明しています。しかし、先の国会でこの法案が話題になった時、自民党の山谷えり子参議院議員の発言(「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、女子陸上競技に参加してメダルを取る」云々)を許しがたい差別だと一方的に決めつける主張が、野党関係者や運動団体からなされ、反対署名まで取り組まれました。この発言は事実を述べただけであり、まったく差別に相当するものではないと私たちは考えます。しかし、このような発言も差別とされるなら、この法律が成立すると、自由な言論が著しく萎縮することになるでしょう。
さらに重大な懸念があります。基本的に身体的性別で区分されているトイレや公衆浴場や避難所などの公衆施設に、性自認による区分が導入され、そのことに反対することが「性自認を理由とする差別」だとされることです。LGBT理解増進法案そのものにはもちろん何らかの禁止規定も罰則規定もあるわけではありませんから、その法律それ自体によって規制されるわけではありません。しかし、この法律が一つの重大な根拠とされて、多くの公衆施設が性自認にもとづいて区分され運用されるようになる危険性があり、それに反対することが「性自認を理由とする差別」だとされ、あるいは裁判所でそう主張する根拠に用いられる可能性が著しく高まる懸念があります。
また、GID特例法では、その第3条において、生殖腺の除去などを伴ういわゆる性別適合手術が済んでいることを法的な性別変更の条件の一つにしています。GID特例法は、性別適合手術を望み、実施してもなおかつ戸籍変更ができなかった人達のためにつくられた法律だからです。しかし、一部の人々は、手術要件を非人道的な断種であり差別だと主張しています。そのため、この法律が成立したならば、GID特例法のこの規定も差別だとされ、同法から手術要件を削除することを求める流れが大いに強まることが予想されます。
以上の2つの重大な懸念点あり、これは私たちだけでなく、市井の多くの女性たちが懸念している点でもあります。そこで貴党に対して以下の質問をします。
質問2-① 貴党は、LGBT理解増進法案でいう「性自認」という言葉をどのように解釈していますか? それは単に自己の性別に関する主観的認識のことですか、それとも、GID特例法で用いられている「性同一性」に準じたものですか?
質問2-② 貴党は、LGBT理解増進法案でいう「性自認を理由とする差別」とは具体的に何を指すものであると考えていますか? いくつかの具体例を出していただければ幸いです。
質問2-③ プロスポーツや高度な技術を競うアマチュアスポーツにおいて、性自認が女性であるが身体が男性のままの人が女子スポーツに参加できないこと、あるいは、そういう人が女性用トイレや女性用の公衆浴場に入れないことは、貴党の考えでは「性自認を理由とする差別」にあたるでしょうか?
質問2-④ GID特例法の第3条に、性別変更の条件として「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」が挙げられていますが、この条件はなくすべきであると考えていますか?
以上の質問に対して、2021年10月20日までに当会メールアドレス(no.self.id.jp@gmail.com)までご回答をいただきたく、何卒宜しくお願い申し上げます。
2021年9月28日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃、桜田悠希
以下は回答①、②です。