原則の声明
「No!セルフID 女性の人権と安全を求める会」
私たちは2021年5月に出した「女性の人権と安全を求める緊急共同声明」にもとづきつつ、以下のように会としての原則を表明します。
私たちは、性別の生物学的現実が軽んじられる社会、女性の権利と安全が軽視される社会、言論の自由が保障されなくなる社会を拒否し、女性の人権と安全が守られる社会を求めます。
“性別の生物学的現実”とは?
「性別の生物学的現実」とは、「生物学的性別(sex)」は「女性(female)」と「男性(male)」の2種類しかない、という事実です。
性別(sex)は、染色体の違いとそこから生じる身体のつくりの違いによって分けられています。セメンヤ選手のようなDSD(性分化疾患)の場合も、必ずどちらかの性別(sex)に分けられます。女性の「生物学的現実」とは、女性は2種類の性別のうち妊娠・出産をする側の性別(sex)であり、それに伴うさまざまなハンデを負っていること、月経がある側の性別であり、女性の平均的な身長・体重・骨格・筋力・心肺機能などが男性の平均的なそれらとは大きな差があること、そしてそうした条件ゆえに歴史的に差別され、排除され、抑圧されてきたということです。
“性別の生物学的現実が軽んじられる社会” とは?
男性と女性との間には生物学的な性差が存在します。そして女性が差別され搾取されてきたのは、目に見えない性自認ゆえではなく、生物学的性別(sex)に関係しています。平等を達成するためには生物学的性別に配慮をしなければならないということは、忘れてはなりません。
しかし昨今、性別を分けるものは、男女の生物学的現実ではなく主観的な「性自認」だ、という考え方が急速に広まっています。問題なのは、このことによって生物学的性別(sex)が軽んじられるようになっていることです。
日本のほとんどの人たちはこれまで、「性自認による性別の変更を望むのは、自己の性別をめぐって強い身体違和をおぼえる性同一性障害(GID)の方々である」と認識してきました。2003年に成立した「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(通称GID特例法)」も、こうした方々を前提としています。
この法律は、性別適合手術を受けたのちに、元の性別で暮らすことが事実上困難になった場合に円滑に社会生活を送れるよう、法的な性別変更を可能とするために作られたものです。しかしながら現在これを逆に解釈し、「手術をしないと法的な性別変更ができないのは、人権に反している」というキャンペーンが行われています。
これが意味することは、GID特例法を、本来の対象であるGIDの人たちのためでなく、より広い範囲のトランスジェンダー、すなわち「自認にのみもとづいて性別を変更したい人たち」のための法律に変えたい、ということです。その最終目標 は、GID特例法における手術要件などを撤廃して、事実上、性自認だけに基づいて法的な性別変更ができるようにすることです。
つまり、セルフID制を目指しているのであり、その結果 、性別適合手術をしないままで、「女性と名乗った人が女性」「男性と名乗った人が男性」と認められる社会が到来することになります。このような制度はすでに海外の複数の国々で導入され、さまざまな社会的混乱を引き起こしています。
“女性の権利と安全が軽視される社会 ”とは?
現状でも、女性の権利と安全は十分に保障されているとは言えません。これに加えて、「性自認のみ」にもとづいて、あるいは主として「性自認」にもとづいて人の性別変更の基準とする法律が設けられたら、どうなるでしょうか?
女子スポーツにおける性別の区分、 政治や企業の意思決定の場におけるクォータ制などの措置 、性別が関係する統計的データなど、女性がこれまでに獲得した権利や、女性の置かれている状況を正確に把握するための調査方法に、大きな譲歩や変化を迫られます。特に、「女性専用スペース利用の条件は、性自認が女性であることだけ」というルールや運用を可能にする法律が実現したら、いったいどうなるでしょうか?
個人の性自認は、その定義からして、他人が確認できるものではありません。そのため、身体や外見が男性のままであっても、自分は女性であるから女性専用スペースを利用する権利があると主張する人がいた場合、それを拒否できなくなってしまいます。(※その実例がカリフォルニア州のWi Spa 事件です)不審者だと思っても通報することが困難になり、その結果 、より性犯罪が起きやすい環境が作られることになってしまいます。
“言論の自由が保障されなくなる社会”とは?
私たちは、同性愛者であれ、トランスジェンダーの方であれ、そのことを理由に職場や教育の場で、あるいは家を借りたり福祉を受けたりする場面で差別を受けてはならないと確信しています。
しかし今日、SNSやメディアなどで「トランス差別」として糾弾されている事例の多くは、実際には、「女性専用スペースはこれまで通り、身体の性別に基づいて確保してほしい」という人として安全と安心を保って生きたいという望みや、「女子スポーツ競技はこれまで通り、身体的性別に基づくほうが公平だ」という、社会的公正を求める声に過ぎないのです。
このようなごく当然の意見表明が、差別扱いされ法律で取り締まられるようになること、つまり、言論の自由が保障されない社会が到来してしまうことを、私たちは危惧しています。 私たちはこのような社会が、今でさえまだきわめて低く脆弱な女性の立場と地位をいっそう危うくするものであると考えます。
私たちはこのような動きに反対し、これまで以上に、女性の人権と安全が守られる社会を求めます。
この問題の今後においてとくに重要な役割を果たすのは、政党とメディアです。2021年の春夏の国会においていわゆる「LGBT理解増進法案 」をめぐって、大きな論争が国内で生じました。そのとき私たちは、与党も野党も、LGBTに関する法律の成立を拙速に行うことなく、市民に十分な情報を提供し、 国民的な議論を喚起し、その結果を踏まえて法制定を行うよう求めました。
2021年の国会では結局 、同法案は上程されることはありませんでしたが、今後も同様の法律案 が上程されることになるのは間違いありません。私たちは引き続き政党 やメディアが、LGBT法案成立ありきの姿勢を取るのではなく、不安を覚えている女性たちの声に耳を傾け、 拙速な法律制定を進めないよう強く求めます。
また、性別を分けるものが何であるかという法的な定義を変更するのであれば、それは全国民がかかわる問題であること、特に女性たちが影響を受ける当事者であることを、必ず念頭に置くよう求めます。私たちはメディアに対して、 法的な性別変更が容易になった諸外国で具体的に何が起こり、どんな状況が発生しているのかをきちんと調べ 、報道することを求めます。
一方の意見だけを伝えるのではなく、民主主義社会にふさわしい賛成反対の両方の意見を公正に紹介する姿勢を求めます。「差別だ」という言葉で議論をふさぐのではなく、この問題によって大きな影響を受けることになる一般女性たちの声へ真摯に耳を傾けることを求めます。
2021年 9月 6日 No!セルフID 女性の人権と安全を求める会 一同