「女性を守る議連」ご提案の「女性スペースの安全・安心を確保するための法案」に関する当会の修正意見

参議院議員山谷えり子
様参議院議員片山さつき様
参議院議員橋本聖子様
ならびに、「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性等を守る議員連盟」に所属の国会議員のみなさま

 「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性等を守る議員連盟」(以下、「女性を守る議連」と略記)のみなさまにおかれましては、私たち女性の安心・安全の確保に向けて日々努力していただいていることに、改めて深い感謝の念を表したいと思います。

 2025年5月15日付『産経新聞』の記事によりますと、「女性を守る議連」が中心になって作成された「女性専用スペースで女性の安全と安心を確保する法案」に関して、自民党が今月20日に党内審査を行なうとのことです。私たちはすでに、一昨年の12月、私たちの会独自の「女性専用施設・区画等の設置推進と安全確保に関する法律案」を作成し、それを「女性を守る議連」のみなさま方に送付させていただきました。それを踏まえて、法案に対する修正意見を述べさせていただきますので、ご配慮いただければ幸いです。

 私たちの手元には実際の法案はなく、すでに新聞等で発表された「要綱」しかありませんので、それを基にした修正意見となります。

 「要綱」に対して、インターネット等で最も異論が出されているのは、「第二 公衆浴場および旅館業の共同浴室に係る男女別の利用に関する措置」の「3 1および2の措置における男女は、身体的な特徴により区別されるものとする」という部分であろうと思われます。ここに一番の懸念と不安が寄せられています。たしかに「身体的な特徴」という表現は、2023年6月の厚生労働省医療・生活衛生局衛生課長の通知等によってすでに用いられ、運用されていることは承知していますが、それが法律の中で用いられる場合には、より具体的な表現が必要であると考えます。それは、多くの人から発せられている懸念と不安を解消するためにも必要です。以下、貴法案に対する私たちの修正案を提示します。

1および2の措置における男女とは、生物学的な意味での男女を意味する。ただし、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下、特例法と略記)を踏まえて、施設管理者の権限において、以下の特別の措置を講じることができるものとする。

①   特例法にもとづいて性別上の取扱いを「男性」に変えた者を女性用の施設の利用者から除外し、男性用の施設への立ち入り又は利用を許可すること

②   特例法にもとづいて性別上の取扱いを「女性」に変えた者のうち、生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあり、かつ、その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備え、かつ、男性器を外科的に除去している者については、女性用の施設への立ち入り又は利用を許可すること。

 以上の修正案について簡単に説明させていただきます。

まず第1に、要綱では、「1および2の措置における男女は、身体的な特徴により区別されるものとする」となっており、これではまるで、「男女」そのものが、生物学的特徴とは別の何らかの「身体的な特徴」によって区別されるものであるように読め、この点がいちばん不安を掻き立てています。男女の区別はあくまでも生物学的なものであって、これは法律によって左右されるものではありません。

 現行の特例法もそのような立場に立っています。同法はその第2条において、性同一性障害者とは、「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち……」とあります。この文言からわかるように、「性別」とは「生物学的」なものであることが、同法の前提になっています。したがって、今回の法案におきましても、この点を最初に原則として確認しておく必要があると考えます。その上で、特例法によって性別上の法的取り扱いを変更した方について、特別の措置を講じることができるものと明記しておくべきものと考えます。

 第2に、取扱い上の特別措置は、あくまでも施設管理者の権限によって行なうものとし、法律が直接にこの特別措置の内容を定めず、その範囲を定めることに限定するべきと私たちは考えます。当該施設の管理はあくまでも施設管理者の自治の領域であり、法律は利用の原則とその範囲の限界を定めることに限定されるべきです。またそれは、施設管理者による柔軟な対応を可能にするためにも必要です。

 もちろん、このような間接的規制のやり方が施設管理者に一定の負担を課すことになるのは承知しています。しかしながら、利用者の安心・安全に責任を持つ管理者であるならば、この程度の負担を引き受けることはやむをえざることだと考えます。たとえ法律が直接に利用者の範囲を規定したとしても、その実施を日常的にチェックするのは個々の施設管理者であり、やはり同じような負担が発生します。それならば、男女別施設の利用者の範囲を、施設管理者自身が個々の状況を踏まえて決定する方が、そのルールを守りやすいでしょうし、その結果に対する責任も引き受けやすいでしょう。

 第3に、特例法で性別上の法的取り扱いを変えた人であっても、生物学的性別によってその扱いが変わるべきであると私たちは考えます。特例法に基づいて性別上の取扱いを「男性」に変えた生物学的女性の場合、男性ホルモンの摂取などでその外見が大きく変わっている場合が多いため、生殖腺の有無や性器の外観にかかわりなく、女性用の浴場施設の利用を認めることは大きな混乱を招くことになりかねません。そこで、施設管理者の権限として、性別上の取扱いを「男性」に変えた人の利用を一律に禁じることは許されるべきです。その場合、男性用の施設を利用することが必要になりますので、それを許可することを可能にする必要があります。

 他方、性別上の取扱いを「女性」に変えた生物学的男性に関しては、現行の特例法における第3条の4(「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」)と5(「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」)の両方を満たし、かつ男性器を外科手術で除去している人のみに女性用の浴場の利用を限定するべきものと考えます。これは事実上、「身体的特徴による」という貴法案の表現の意味するところと基本的に一致するものでありますが、現行特例法の表現を援用しつつ、より明確かつ具体的に規定するべきであると考えます。

 もちろん、最高裁判所が、性別上の取り扱いの変更要件として特例法の第3条4を違憲と判定したことは承知しておりますが、それはあくまでも法的な性別上の取り扱い変更に関わる要件であって、社会的に男女で分かれ、通常、衣類を身につけない状況で、あるいはそれに類する状況で利用する施設の利用条件に自動的に及ぶものでないのは、現行特例法の4条1に「法律に別段の定めがある場合を除き」とあることからも明らかです。

 また、同じく最高裁は、異性ホルモン摂取によって男性器が萎縮している場合も、特例法の第3条5の要件を満たしているとの判断を下しましたが、これも、法的な性別上の取り扱い変更に関わる要件であって、社会的に男女で分かれ、通常、衣類を身につけない状況で、あるいはそれに類する状況で利用する施設の利用条件に自動的に及ぶものではありません。たとえ萎縮していても、通常、裸体で利用する浴場施設においては、施設管理者の権限として、男性器がある者の利用を禁止することは、女性の安心・安全にとって許容されるべき制限措置であると考えます。

 以上の修正を加えることで、多くの女性たちが訴えている懸念は、完全には取り除かれないにせよ、かなり緩和させることができると思います。せっかく女性の安心・安全の確保を謳う法律ができようとしているのに、懸念と不安を訴える女性たちの主張にいっさい耳を傾けることなく同法案の成立に突き進むことは、それ自体がこの法律の趣旨と精神に反することになるでしょう。

 最高裁の最近の判断を踏まえつつ、また、その決定以前に現行の特例法で性別上の取扱いを変えた人々に適切な配慮をしつつ、できるだけ女性の不安と懸念をぬぐえるような法案にしていただきたく、「女性を守る議連」のみなさまにお願いするしだいです。何とぞよろしくお願い申し上げます。

2025年5月18日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会  代表 石上卯乃

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