千葉県知事 熊谷俊人様
千葉県健康福祉部長 岡田慎太郎様
千葉県健康福祉部健康福祉政策課人権室様
すでにSNS上で大きな話題になっているように、千葉県は、まともな理由説明もなしに、10月2日開催予定の千葉県人権啓発指導者養成講座の一方的な中止を決定しました。その講座で講師をする予定となっていたのは、「被差別部落出身者の人権」に関しては全国大学同和教育研究協議会会長の石元清秀氏と、「女性に関する人権」に関しては、LGBT当事者団体「白百合の会」の代表である森奈津子氏です。この日の講座の中止が、千葉県のサイト(https://www.pref.chiba.lg.jp/kenfuku/keihatsu/youseikouza-r6.html)で通知されましたが、理由はいっさい明示されず、「諸般の事情により中止になりました」とあるだけです。
しかし、この講座が中止になるまでの経緯を見れば、このような事態になった理由が推察できます。この講座のことが9月13日にインターネット上で公表されると、9月20日ごろからトランス権利活動家とそのアライたちによって、講師の一人が森奈津子氏であることを問題にするポストがツイッター(現X)などで投稿されるようになりました。それらは、トランス問題に関して自分たちの立場に与しない森氏を一方的にトランスヘイターないし差別者とみなすものでした。そうした投稿の一つに対して、千葉県知事自身が9月22日に「経緯を確認します。私も驚いています。」という投稿を行ないました(https://x.com/kumagai_chiba/status/1837629619962630631)。そして、この投稿をきっかけにして事態が急速に動き、千葉県は9月26日には早々に中止を決定しました。森氏の講座だけが中止になったのではなく、石元氏の講座も中止になったのは、森氏へのネット上の攻撃に千葉県が屈したという印象を弱めるためでしょう。
私たちは千葉県によるこのような措置に断固抗議し、今からでもこの中止決定を撤回し、当初の予定通り講座を開催するか、あるいは別の日に改めて講座を開始するよう強く求めるものです。私たちはこの千葉県の決定に次のような重大な問題があると考えます。
1.県民の声を公平に見るべき千葉県が一方の見方にのみ与している
トランス問題をめぐっては日本でも世界でも大きく意見が分かれており、トランスジェンダー当事者の間でさえ意見が一致しておらず、千葉県民にあってもそうです。これほど先鋭に意見が分岐している問題で、千葉県という地方自治体が特定の思想、潮流からの一方的なレッテル貼りを真に受けて、特定の講師を排除することは、公的機関としての責任を完全に放棄するものです。千葉県民の多くはこの問題に関して情報がほとんど提供されていないか、特定の立場からの意見だけが提供されており、森奈津子氏の講演は、そうした状況を是正し、より多面的な意見を聞く場を提供するものでした。その機会そのものを排除した今回の決定は、地方自治体として絶対にありえないことです。
2.「諸般の事情により」という曖昧な理由での自粛が言論を萎縮させ、民主主義社会の危機を招く
先に述べたように、千葉県はその公式サイト上で、講座中止に関して何ら具体的な理由を述べておらず、「諸般の事情により」という表現でごまかしています。特定の一方的な思想・立場からする攻撃に迎合して講座を中止したこと自体が民主主義社会のあり方を大きく毀損するものですが、その理由を明示せず、「諸般の事情により」という言葉で濁すことは、なおいっそう言論の自由を萎縮させ、民主主義社会の危機を招くものです。なぜなら、もし理由が明示されていたなら、その理由付けが間違いであることを具体的に指摘することでこの措置を批判することができますが、理由が明示されることなく、「諸般の事情」でごまかされた場合には、そのような反論さえ不可能になるからです。これは事実上、問答無用と同義であり、言論の自由と民主主義に対する重大な挑戦です。
今後、千葉県では、公的機関が主催する講演等で、女性の人権と安全について、トランス権利活動家とは異なる視点で意見を述べることそのものが問題だとみなされ、あらかじめ公表の場を奪われることになるのを、私たちは強く懸念しています。それは言論の自由の侵害に千葉県自身が積極的に加担することを意味します。
3.トランス問題との関連で女性の人権と安全を取り扱えなくなり、それを語ること自体がタブー化されてしまう
予定されていた森氏の講座に関する千葉県の当初の説明では、「体ではなく心の性で性別を決めようとするLGBT思想、トランスジェンダリズムを法制化しようとする動きから、女子トイレ、女湯、更衣室、などの『女性のスペース』を守る活動についてお話いただきます」とあります。森氏が、トランス問題を女性のスペースを守るという立場から批判的に取り上げることを予定していたことは明らかです。彼女がいっせいにトランス権利活動家やそのアライたちから攻撃されたのは、まさにそれが理由になっているわけです。この講座が一方的に中止にされたことで、ますますもって、トランス問題を女性の人権と安全という立場から取り上げることができなくなり、それを語ること自体がいっそうタブー視されることになるでしょう。これは、女性の人権と安全そのものを脅かす暴挙です。
私たちは以上の立場から、千葉県による今回の中止決定に断固抗議するとともに、千葉県として、森奈津子氏と千葉県民に対して正式に謝罪したうえで中止を撤回し、今回の人権講座を改めて実施することを強く要求します。どうか民主主義の原則と女性の人権・安全を守る立場に立ってください。
2024年9月30日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃