【当会独自案】女性スペースに関する法律案(23年12月3日付)

女性専用施設・区画等の設置推進と安全確保に関する法律案

(法の目的)

第一条 この法律は、トイレ、更衣室・脱衣所、浴場など、通常社会生活において隠されている身体部分の一部ないし全部が露出される場所において、女性専用施設・区画等の設置を推進し、その安全を確保し、もって女性と女児の人権と尊厳を守ることを目的として定める。


(定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の定義は、それぞれ各号に定めるところによる。

一 「女性専用施設・区画等」及び「男性専用施設・区画等」とは、トイレ、更衣室・脱衣所、浴場など、通常社会生活において隠されている身体部分の一部ないし全部が露出される場所において、それぞれ「女性用」及び「男性用」と明示された建物、区画又は施設等をいう。

二 「共用施設・区画等」とは、トイレ、更衣室・脱衣所、浴場など、通常社会生活において隠されている身体部分の一部ないし全部が露出される場所において、男女区別なく誰でも利用できる建物、区画又は施設等をいう。

 「第三の施設・区画等」とは、トイレ、更衣室・脱衣所、浴場など、通常社会生活において隠されている身体部分の一部ないし全部が露出される場所において、前項一、二のいずれにもあてはまらない建物、区画又は施設等をいう。


(男女別の施設・区画等における区分の原則)

第三条 第六条及び第七条で提示された例外を除いて、女性専用施設・区画等と男性専用施設・区画等を分ける場合、その区分は男女の生物学的性別による。


(女性専用トイレの設置義務及び努力義務)

第四条 国、地方公共団体及び公益法人は、政令で定める多数の者が使用するトイレを設ける場合は、他のトイレと明確に区分された女性専用トイレを設けなければならない。

 一で定めた者以外で、同時に就業する労働者の数が常時十人を超える事務所において、事業主又は施設・区画等の管理責任者は、政令で定める多数の者が使用するトイレを設ける場合、他のトイレと明確に区分された女性専用トイレを設けなければならない。

三 一で定めた者以外で、同時に就業する労働者の数が常時十人以下の事務所において、事業主又は施設・区画等の管理責任者は、政令で定める多数の者が使用するトイレを設ける場合は、他のトイレと明確に区分された女性専用トイレを設ける努力をしなければならない。


(その他の女性専用施設・区画等の設置義務及び努力義務)

第五条 政令で定める多数の者が使用する更衣室・脱衣所、浴場等を設ける場合は、他の更衣室・脱衣所、浴場等と明確に分離された女性専用の更衣室・脱衣所、浴場等を設けなければならない。

 建物の大きさや構造、敷地面積の不足その他のやむをえない理由により女性専用の更衣室・脱衣所、浴場等を設けることができない場合は、時間帯による区分を行なうなど、すべての利用者の安全と安心を確保する努力を行なわなければならない。


(女性専用トイレへの女性以外の者の立ち入り禁止)

第六条 第四条で定めた女性専用トイレには、緊急事態の場合、又は清掃・点検・修理など管理上の必要性等の合理的な理由がある場合を除き、政令で定める年齢以上で生物学的女性以外の者は、原則として立ち入り又は利用することはできない。

 女性専用トイレの管理責任者は、生物学的女性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づいて性別の取扱いを「男性」に変更した者については、女性専用トイレへの立ち入り又は利用を禁じることができる。

三 女性専用トイレの管理責任者は、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いが「女性」に変更された者のうち、その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えている者については、女性専用トイレへの立ち入り又は利用を許可することができる。

四 女性専用トイレの管理責任者は、生物学的男性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いが「女性」に変更された者のうち、三で定められた場合に該当しない者が、男性専用トイレを利用することが心理的又はその他の事情により著しく困難である場合、共用トイレ又は第三のトイレを設けて、その者の立ち入り又は利用を求めることができる。

 女性専用トイレの管理責任者は、生物学的男性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いが「女性」に変更された者のうち、三で定められた場合に該当しない者が、男性専用トイレを利用することが心理的又はその他の事情により著しく困難であり、かつ、建物・区画又は施設内に共用トイレ又は第三のトイレが設けるのが困難である場合、男性専用トイレの一部または全部を共用トイレ又は第三のトイレに変更し、その者の立ち入り又は利用を求めることができる。

 女性専用トイレの管理責任者は、生物学的男性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いが「女性」に変更された者のうち、三で定められた場合に該当しない者が、男性専用トイレを利用することが心理的又はその他の事情により著しく困難であり、かつ、建物・区画又は施設内に共用トイレ又は第三のトイレが設けるのが困難であり、かつ、男性専用トイレの一部または全部を共用トイレ又は第三のトイレに変更することが困難である場合、女性専用トイレの一部を、女性専用トイレの他の部分と視認可能な形で区分し標識で明示した上で第三のトイレに変更し、その者の立ち入り又は利用を求めることができる。


(その他の女性専用施設又は区画への女性以外の立ち入り禁止)

第七条 第五条で定めた女性専用施設又は区画には、緊急事態の場合、又は清掃・点検・修理など管理上の必要性等の合理的な理由がある場合を除き、政令で定める年齢以上で生物学的女性以外の者は、原則として立ち入り又は利用することはできない。

 第五条で定めたその他の女性専用施設又は区画の管理責任者は、生物学的女性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づいて性別の取扱いを「男性」に変更した者の立ち入り又は利用を禁じることができる。

三 第五条で定めたその他の女性専用施設又は区画の管理責任者は、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いを「女性」に変更した者のうち、生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあり、かつ、その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えている者については、女性専用施設・区画等への立ち入り又は利用を許可することができる。

四 第五条で定めたその他の女性専用施設又は区画の管理責任者は、生物学的男性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いを「女性」に変更した者のうち、上記三で定められた場合に該当しない者が、男性専用施設・区画等を利用することが心理的又はその他の事情により困難である場合、共用施設・区画等又は第三の施設・区画等を設けて、その者の立ち入り又は利用を求めることができる。

 第五条で定めたその他の女性専用施設又は区画の管理責任者は、生物学的男性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いを「女性」に変更した者のうち、三で定められた場合に該当しない者が、男性専用施設・区画等を利用することが心理的又はその他の事情により困難であり、かつ、建物・区画又は施設内に共用施設・区画等又は第三の施設・区画等を設けるのが困難である場合、男性専用施設・区画等の一部又は全部を共用施設・区画等又は第三の施設・区画等に変更し、その者の立ち入り又は利用を求めることができる。


(罰則)

第八条 第六条の一及び三、及び第七条の一及び三で定められた場合を除き、生物学的男性が女性専用施設・区画等に立ち入り、又は退去の要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった場合、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

 第六条の二にもとづいて、施設管理者が、生物学的女性のうち性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づいて性別の取扱いを「男性」に変更した者の立ち入り又は利用を禁じている場合、その者が女性専用施設・区画等に立ち入り、又は退去の要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった場合、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。


附 則

(施行期日)

一 この法律は、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成十五年法律第百十一号)の改正法(令和*年法律第***号)の施行の日から施行する。

 この附則に定めるもののほか、この法律の施行に関して必要な措置は、政令で定める。

説明


総論

 「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下、特例法)における性別取扱いの変更要件が緩和されることによって、国民の間で、とりわけ生物学的にも社会的にも脆弱な立場にある女性の間で、不安が高まっている。そもそも、排せつや着替えや入浴など、通常社会生活において隠されている身体部分の一部ないし全部が露出する場所において、女性専用スペース(この法律では「女性専用施設・区画等」と表現)が保障されることは、根本的に女性の尊厳と生存権に関わる。そうした場所に男性がいること自体が、多くの女性の尊厳と人権を侵害しうる。

 また、性犯罪の99%が男性によってなされており、その被害者の9割以上は女性と女児であるという状況の中で、女性専用スペースは女性にとって唯一安心できる空間でもある。男性に付きまとわれた場合でも、女子トイレに入ることで難を逃れたという女性も少なくない。女性専用スペースなしには、女性と女児は安心して生活することはできない。それは女性たちの長年にわたる努力によって獲得された貴重な権利であって、簡単にないがしろにできるものではない。しかるに、これまで、女性専用スペースを明文で保障した全国的立法が存在せず、通知や管理規則等のレベルにとどまっていた。したがって、独自の全国的立法を通じてこの専用スペースを保障することは、喫緊の課題となっている。

 以下に述べる説明から明らかなように、この法律は、現行の特例法のもとでなされている女性専用スペースの事実上の運用状況、すなわち、生物学的女性から、現行特例法の三条に基づいて「男性」に戸籍変更した者を除外し、現行特例法の三条に基づいて「女性」に戸籍変更した者を加えた人々が、女性専用スペースを利用している状況を、管理者の裁量権の範囲を法律で定めることを通じて、維持するものである。いわゆるLGBT理解増進法の成立を受けて、2023年6月23日に、厚労省生活衛生課長名で出された通知は、公衆浴場の男女の区別を「身体的特徴」でもって行うよう助言しているが、これも基本的に現行特例法第三条の四号(以下、四号要件)と五号(以下、五号要件)の両方を満たした人、あるいは少なくとも五号要件を満たした人を念頭に置いているものと考えることができるので、この点からも既存の方針・政策との齟齬はないであろう。厚労省の通知ではあまりにも公的ルールとして弱いので、全国的立法という形で規制のルールを法的に明示化する必要がある。したがって、本法案は、現行特例法の手術要件(四号要件と五号要件)がたとえ撤廃されても、それに自動的に連動して女性専用スペースの運用基準が変更されることのないよう、現行特例法の基準での女性専用スペースの利用条件を維持するものである。

 なお、この法律案で「女性専用スペース」と表現していないのは、日本の法律ではできるだけ外来語を避けるという慣習にもとづいている。ただし「トイレ」という表記に関しては、十分に日本語として定着しているので、「トイレ」という表記を使用する。

第一条について

 この法律の目的を定めている条項であり、法律の趣旨を明確にしている。この条項の中には、「性犯罪」云々の文章は入っていないが、それは法律の文言として曖昧で不適切であるというだけでなく、そもそも、性犯罪の恐れだけが女性専用スペースを作る理由ではないからである。したがって、法の目的を性犯罪の防止であると狭く解釈させるような記述は避けた。そうすることで、女性を自認するものが女性専用スペースにおいて暴行や盗撮などの何らかの性犯罪を犯さないかぎり、利用可能であるという理屈が成立する余地を排除した。

第二条について

 この法律で使用される文言の定義を定めた条項である。ここではあえて「女性」そのものを定義していない。男女の区別は基本的に生物学的なものであり、そのことはあえて法律で書くまでもなく当然のことであって、性同一性障害特例法もそのことに基づいて、法律における性別の取扱いに関して特例を設けているにすぎない。そうした状況の下で、あえて「女性」を、生物学的女性以外の者を含んだうえで定義しなおすことは、「女性」という概念がそれ自体としては生物学的なものではないとする解釈が成り立ちかねない。そうした解釈の余地を残さぬよう、生物学的性別とは別の法的定義をあえて入れないことにした。

 「第三のトイレ」は、今日、「多機能トイレ」などの名称で設置されているトイレを念頭に置いており、基本的に個室型で、さまざまな事情(障害や高齢など)から通常の男女別トイレ又は共用トイレを使用できない人を対象にしたトイレのことである。

第三条について

 ここでは、男女別の施設・区画等の利用基準は、生物学的性別に基づくという原則が宣せられている。これを入れたのは、あくまでも、男女別スペースの利用基準は生物学的性別に基づいているという原則を維持・確認するためである。性自認を生物学的性別に優先させる政策が支配的になっている多くの国では、この原則が否定され、事実上、「男女」は性自認に基づくものとされているので、男女別の施設の運用基準もそれに準じるものとなってしまっている(イギリスとアメリカの一部の州では生物学的性別を重視する政策に立ち戻る歓迎すべき動きが出てきているが)。また、ここでは原則を維持・確認すると同時に、第六条と第七条に定められた例外を認めることで、純粋に生物学的区分での運用ではないという形にしている。原則と例外との関係を堅持しているわけである。

第四条について

 トイレに関して、女性専用スペースの設置を一般に義務づける条項である。トイレとそれ以外とを分けたのは、トイレは基本的にすべての事業所や公共空間において必要であるのに対し、浴場や更衣室・脱衣所は必ずしもそうではないこと、および、基本的に個室で利用がなされる女子トイレと、不特定多数が同時に利用し、かつ裸かそれに近い姿になる浴場や更衣室・脱衣所では、設置及び利用の諸条件が当然にも異なるからである。

 第一項では、政府、自治体、公益法人の、女性専用トイレの設置義務をうたい、第二項と第三項では一般事業所を対象にしている。第二項と第三項は事業所の規模で分けている。これに関しては、厚生労働省が2021年に「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令」において、事務所則第17条第1項を改訂し、「同時に就業する労働者が常時十人以内である場合は、現行で求めている、便所を男性用と女性用に区別することの例外として、独立個室型の便所を設けることで足りることとする」としていることを踏まえて、十人を超える場合と十人以下の場合とに分けている。十人を超える場合は、女性専用のトイレ等を設置することを義務とし、十人以下の場合は努力義務としている。

第五条について

 トイレ以外の女性専用スペースの設置義務を定めている。第二項は、古くて小規模な旅館や民宿を想定して、「建物の大きさや構造、敷地面積の不足その他のやむをえない理由により女性専用の建物、区画又は施設を設けることができない場合」を想定して、例外を設けている。

第六条・第七条について

 ここでは、女性専用施設又は区域等については「原則として」、「生物学的女性以外の者は立ち入り又は利用することはできない」としている。しかし、これはあくまでも原則であり、第六条および第七条のそれぞれ第二項以下でいくつかの例外を設けている。ここで注意すべきは、この例外規定は、あくまでも施設管理者の裁量として是認していることである。つまり、実際に生物学的女性以外の者(その範囲はこの法律によって定められている)が立ち入り又は利用することができるかどうかの判断は管理者に委ねている。しかし、完全に管理者任せにするのではなく、管理者の判断とその裁量範囲に法的根拠を定めることで、管理者が不必要な訴訟リスクを負わないで済むようにした。こういう形にしたのは、あくまでも女性専用スペースを使う権利があるのは生物学的女性だけであるという原則を守るためであり、その上で、管理者の裁量の範囲でそれ以外の者も利用できるとし、その裁量の範囲を法律で定める形にしている。

 第六条の第二項及び第七条の第二項では、特例法を通じて性別の取扱いを「男性」に変えた者の女性専用スペースの立ち入り又は利用を禁じることができるとしている。純粋に生物学的女性だけでのスペース利用を法的ルールとすると、乳房もなくひげを生やした「トランス男性」が女性専用スペースを利用することになり、やはり女性に不安と混乱を与えかねないからである。

 第六条の第三項と第七条の第三項では、生物学的男性である「トランス女性」のどの範囲を例外として女性スペースの利用可能な対象に含めうるかという、最も慎重を期すべき問題を扱っている。まず、トイレに関しては、現行特例法の第三条第一項の五号要件(外観要件)をそのまま採用することで、例外の裁量範囲を定めている。これは管理者の裁量として、五号要件を満たした人の利用を許可できるという形態を取っているので、たとえ管理責任者側がそうした人の利用を許可しなくても違法ではない。すでに共用トイレや第三のトイレがある場合には、そういう人に対しても最初からそれらのトイレの利用を求めることは、法文上可能になっている。法の定義上、生物学的女性以外の者を法的「女性」に入れてしまった場合、このような柔軟な対処ができなくなってしまう。また、五号要件を満たしていない生物学的男性は、精巣もペニスも保持しているのだから、外性器の機能上、女子トイレを利用する特段の理由がないのであり、したがって、男性用のトイレを使うか、あるいは共用トイレないし第三のトイレを使うことが適切であろう。

 次に、トイレ以外の女性専用施設又は区画等に関しては、全裸になる、あるいはそれに近い状態になることが必要になるので、ここでの例外としての管理者の裁量範囲を、トイレの場合より狭くし、現行特例法の四号要件と五号要件の法文をそのまま再現し、両方を満たしている者に限定している。そうすることで、女性スペースに関しては、現行特例法のもとで運用されている状況と、事実上同じ状況が維持されることになるだろう。トイレ以外の女性スペース利用の例外規定の中に両要件を再現しておけば、たとえ、現行法第三条第一項の四号要件のみならず、五号要件も違憲にされたとしても、この両規定は、女性専用スペースに入れる生物学的女性以外の人々に対する制限要件として今後とも機能しうる。

 トイレの場合と同じく、ここでも管理者の裁量として、四号要件と五号要件を満たした人に対して女性専用スペースの利用を許可できるとしているのであって、たとえ許可しなくても違法にはならない。

 以上の規定に対しては、四号要件がすでに違憲判定され、五号要件についても、差し戻された広島高裁で違憲判定になる可能性があるから不適切であるとの異論が起こりうるだろう。しかし、特例法における「性別の取扱いの変更」といっても、それはあくまでも、「法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす」だけであって、無条件に他の性別に変わったものとみなすものではない。「法律に別段の定め」があるなら、特例法で「他の性別に変わったものとみなされ」ても、法律で定められた特定の場面においては、「他の性別に変わったものとみなす」必要はない。

 実際、10月25日の最高裁大法廷の決定が現行特例法の第三条第四号を違憲とみなしたのは、あくまでも特例法における性別取扱い変更の審判申し立ての要件としてであって、女性専用スペースを利用する要件に関してではない。実際、最高裁大法廷における反対意見においても、公衆浴場などにおいては、別異の取扱いをすること自体は否定されていないし、特例法の要件緩和を求めているすべての野党も、女性専用スペースにおいて別異の取扱いをすることは否定していないのだから、本法案の第六条と第七条で現行特例法第三条の第四号と第五号を援用することは否定されないはずである。また、当時、国会の全会一致で制定された現行特例法の規定を生かすことは、立法権の保護という観点からも正当であると言える。

 また、最高裁大法廷の10.25決定が指摘した、四号要件における身体への侵襲性はとりわけ生物学的女性の場合にとって深刻なのであり(子宮と卵巣の切除が必要)、男性の場合は睾丸という外性器の切除を意味するにすぎず、身体への侵襲性は弱い。逆に、睾丸を残せば、五号の外観要件にも反することになる。したがって、本法案の第七条第三項で、現行特例法の四号要件と五号要件の両方を満たすことを利用条件にしたことで、陰茎のある男性だけでなく、陰茎がなくても睾丸のある生物学的男性がトイレ以外の女性専用スペースに入ることは許されないという立場を示すことになる。

 これでも、性別とは生物学的性別のことであるという原則的立場(われわれもその立場だ)からすれば、原則からの重大な後退に見えるだろうが、現在の政治と司法の状況からするとやむをえないと思われる。実際、純粋に生物学的性別での利用ルールを法的に徹底した場合、次のような事態が考えられる。1、外見を著しく「男性」に近づけている「トランス男性」が女性専用スペースを利用することになり、やはり混乱を生む。2、現行の特例法に基づいて性別の取扱いを変更した者はこれまで女性専用スペースを事実上利用できていたが(少なくとも、それを違法とする別段の法律の定めがなかったが)、今後は無条件に使えないことになり、当然、これらの人々の一部は法の下の平等に反するとして同法の違憲性を裁判に訴えるだろう。その場合、司法が、生物学的女性の権利と法益を十全に守るという立場をとっているならば、この訴えは退けられるだろうが、10.25決定を全会一致で行なった現在の司法にそのようなことを期待することは、残念ながらできない。

 以上のように差を設けることは、国家賠償訴訟を回避する上でも有意義である。四号要件を満たさない者でも、あるいは五号要件さえ満たさない者であっても、家庭裁判所の審判で性別取扱いの変更ができ、かつ四号要件及び五号要件を満たした上で法的性別を変更した人とまったく同じ権利を持つことになれば、四号要件及び五号要件を満たすために生殖腺の切除を始めとする「性別適合手術」をした人は、不必要な手術を強いられたとして国家賠償訴訟を起こすかもしれない。それを避けるためにも、両者が享受できる権利に差を設ける必要がある。

 第六条の第四項と第五項及び第七条の第四項と第五項に関しては、現行特例法の四号要件と五号要件の両者を満たしていない者であって、かつ、男性専用施設を使用することが著しく困難な者に関する規定であり(「著しく困難」という強い表現に注意。個人の単に「いやだ」という忌避感情だけではこれは適用されない)、共用施設又は第三の施設を設けてそれを利用するよう求め、それらが設けられていないか設けるのが困難な場合には、男性専用施設又は区画等の一部ないし全部を共用施設ないし第三の施設として運用することを求めており、安易に女性専用施設の使用を認めないようにしている。

 第六条の第六項は、第七条にはない規定であって、トイレに限っては、共用トイレも第三のトイレも使用するのが困難な特定の人に限って、女性専用トイレの一部を第三のトイレにして、その利用を認めることができるとしている。第五項では、共用ないし第三のトイレに変更できるのは「男性専用トイレの一部または全部」だったが、この第六項ではそれと違って、共用ないし第三のトイレに変更できるのは、あくまでも「女性専用トイレの一部」に限定している。これは、できるだけ女性専用トイレそのものをなくさないためである。

 言うまでもなく、この第六項の規定は、経産省トイレ裁判における最高裁判決を踏まえたものである。それと同時に、それを最後の第六項に置くことで、物事のあるべき優先順位を定めるものとなっている。すなわち、あくまでも原則は生物学的性別に基づく利用であり、次に、現行特例法第三条第五号を満たした人に、管理者の裁量で女性専用トイレの利用を許可することができるとし、その次に、それ以外の「トランス女性」のうち、男性トイレの使用が心理的ないしその他の理由で著しく困難な人には、共用トイレまたは第三のトイレを利用するよう求め、さらにそれらの設置が困難な場合には、男性専用トイレの一部ないし全部を共用トイレないし第三のトイレを利用するよう求めている。そして、いちばん最後に、それも困難である場合には、その特定の人にかぎって、女性専用トイレの一部を、周りから区別し、視認できる標識を提示した上で第三のトイレにすることを認めるという順番になっている。五号要件を満たしていない人は、あくまでも女性専用トイレをそのまま利用することはできないのであり、それ以外のさまざまな可能性を追求した最後に、女性専用トイレの一部を第三のトイレとして用いることができるとしているのである。

 このように規定すれば、経産省トイレ裁判の最高裁判決には反するのではないかという異論が生じるだろう。しかし、経産省トイレ訴訟で抗告人が勝訴したのは、法律上の明確な規定が存在せず、最初から管理者の裁量に任されていたからである。最初から法律でルールを定めていれば、経産省トイレ訴訟において抗告人側が勝利することはなかったろう。それでも抗告人を勝たせるためには、この法律案の第六条の第六項そのものが憲法違反であると決定しなければならないが、女性専用トイレの一部を第三のトイレとして、その利用を求めることさえ憲法違反とするのは、はなはだ困難であろうし、このような細部の規定に対してさえ違憲判決を下すとなれば、立法権への深刻な侵害になるであろう。

第八条について

 これは罰則規定である。第六条および第七条で定められた例外に該当する者以外の生物学的男性が女性専用施設・区画等に侵入した場合の罰則であり、建造物侵入罪と同程度の罰則を定めている。建造物侵入罪と同じなら、特段、罰則を定めなくてもよいように思えるが、女性専用スペースに侵入するという犯罪が、単なる「建造物侵入罪」としてカウントされる事態を防ぐ意味もある。単なる「建造物侵入罪」ではなく、女性専用スペースへの侵入罪なのであり、したがって性犯罪の一種として考えることができる。

 第二項については、同じことを「トランス男性」に対しても定めている。

以上

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