ひょうご部落解放・人権研究所 事務局長 細田勉様
人権問題をめぐる日頃のみなさまの活動と研究に敬意を表します。私たちは、2年前から、女性の人権と安全を求める立場で活動している女性団体です。
さて、女性差別の問題に長らく取り組んできた牟田和恵大阪大学名誉教授は、貴団体が今年の8月から12月にかけて企画・実施している人権問題の連続講座(ひょうご人権総合講座)において「ジェンダー論」の講師をすることになっていましたが(11月2日予定)、突然、依頼取り消しの連絡を貴研究所から受けたとのことです(https://note.com/mutakazue/n/n0bc107aa2c15)。
貴研究所が牟田先生に出した依頼取り消し文章によりますと、これまで貴研究所の企画で講師をしてきた「当研究所との関わりの深い方々」が、トランス問題をめぐる「牟田先生のご主張を批判」しているからというものです。その批判の適否については、「研究所として……判断するものではありません」としながら、このまま牟田先生が講義をすることになれば、「研究所が牟田先生のご主張に同調しているというような解釈をされる方が出る恐れ」があり、「今後、講演や原稿執筆などの依頼を拒否される可能性など、研究所運営に支障をきたすこと」が懸念されるからだというのです。
実に驚くべき主張です。貴研究所は、批判の適否は判断しないと言いながら、その批判を事実上一方的に受け入れるような態度を取っているだけでなく、そもそもトランス問題が直接のテーマとなっているわけではない「ジェンダー論」の講義依頼さえ撤回するという極端な措置を取ることに、いったいどのような合理性や正当性があるのでしょうか? あなた方は他の問題でも、ある講師の意見に対して他者からの批判があれば、講師依頼の取り消しのような極端な措置を取るつもりでしょうか?
そして、牟田先生にこのまま講義をさせれば、それだけで、「研究所が牟田先生のご主張に同調しているという」牽強付会な解釈をする人物が登場し、その人物が「今後、講演や原稿執筆などの依頼を拒否される可能性」があるとのことですが、実際にそのような人物がいるとすれば、それは信じがたいほど傲岸不遜であり、学問の自由も言論の多様性もいっさい認めない理不尽な発想の持ち主であることは明らかです。そのような人物が現れる可能性を理由に講座の講師依頼を一方的に取り消すなど、言語道断です。いったいあなた方は学問の自由、意見の多様性、研究機関の自立性についてどのように考えているのでしょうか?
ほんのわずかでも研究機関としての良心があるならば、1年前から依頼し、すでに広く広報をしている企画に関しては、今さらキャンセルできないことを批判者たちにきちんと説明し、牟田先生に話してもらうのはあくまでもジェンダー問題であってトランス問題ではないので、当研究所の意見と同じだと解釈する余地はないことを、丁寧に説明するべきでした。これは最低限の社会的常識の部類に属することでもあります。
貴研究所が行なったことは、学問の自由、表現の自由、研究機関の自立性、意見の多様性の尊重など、自由と民主主義のあらゆる基本原則を踏みにじるものです。このことによって、あなた方はもはや「人権」について語る資格さえ失ったとみなされて当然でしょう。なぜならあなた方は牟田先生の学問の自由、意見表明の権利、良心の自由を否定し、それを通じて、牟田先生と同じ意見を持つ他の無数の女性たちのそうした自由と権利をも否定したからです。
私たちは貴研究所の今回の措置に断固抗議するとともに、それをただちに撤回し、牟田先生に対して真摯な謝罪をするよう求めます。
2023年9月30日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃