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すべての国会議員のみなさまへの緊急の訴え LGBT法案の今国会での制定を急がず、国民的な議論を喚起してください 

 いわゆるLGBT法案をめぐって、文字通り世論を二分するような激しい議論・論争が起こっており、多くの女性たちやLGBT当事者から深刻な懸念の声が出されています。そして現在、国会には、こうした世論の分岐を受けて、3つの異なった案が提出される事態になっています。

 まず、修正された与党案である「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法案」(以下、与党案)が自民党と公明党によって提出され、次に、修正される前の2021年の与野党合意案が立憲民主党、日本共産党、社会民主党の3党によって独自の野党案として提出され(以下、野党3党案)、さらに日本維新の会と国民民主党によるまた別の野党案が提出されました(以下、野党2党案)。

 この3つの案の主たる相違は、1.与党案が「性同一性」という用語を使い、野党3党案が「性自認」という用語を使い、野党2党案が「ジェンダーアイデンティティー」という用語を使っていること、2.与党案と野党2党案では「不当な差別はあってはならない」と表現されているのに対して、野党3党案では「差別は許されない」と表現されていること、3.野党2党案では、「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」という条文が新設され、また教育現場での啓発に関しては、「保護者の理解と協力を得て行う心身の発達に応じた教育または啓発」という限定が加えられていること、です。

 しかし、私たちは以下の5点からして、抜本的な修正がなされないかぎり、いずれの法案にも賛成することはできません。

1.「性的指向」と「性同一性」等を同一の法律で扱うことには無理がある

 いずれの案も、「性的指向」と、「性同一性」ないし「性自認」ないし「ジェンダーアイデンティティー」(以下、「性同一性」等)とを同じ法律で扱うという構造的な問題を抱えています。「性的指向」と「性同一性」等はまったく異なる次元のものであって、安直に同一の法律で扱うべきものではありません。そして現在、激しい論争の対象となっているのは「性同一性」等であって、「性的指向」ではありません。「性的指向」の多様性に対する国民の理解増進という積年の課題が、「性同一性」等がはらむさまざまな問題の巻き添えにされている事態をいつまでも放置するわけにはいきません。3つの法案から「性同一性」等を削除したうえで、改めてこの法案の是非を国会で議論するべきです。

2.「性同一性」等を法案に入れる場合には、性同一性障害特例法に明確に紐づける必要がある

 私たちは「性同一性」等は法律に入れるべきではないと考えますが、もし入れる場合にはそれは明確に性同一性障害特例法に関連づけて定義する必要があると考えます。

 3つの法案はそれぞれ、「性同一性」、「性自認」、「ジェンダーアイデンティティー」という用語を使っていますが、それらの定義はいずれもまったく曖昧です。とくに「性自認」という言葉は、純粋に主観的な当人の認識を指すことができる言葉であり、そのようなものを国家の法律に入れることはあってはならないことです。それは、客観的な属性に基づいて成り立っている法秩序と諸制度を著しく混乱させることになるでしょう。すでに省令や地方自治体の条例でその用語が使われているとすれば、速やかに除去し、別の言葉に置き換えられるべきものです。また、日本語としてはほとんど定着していない「ジェンダーアイデンティティー」を法律用語に入れることも問題です。また、すでに「gender identity」を法制化している諸外国で起こっている深刻な問題を考えれば、この用語を安直に法律に入れるべきではありません。

 この3つの案の中では与党案の「性同一性」が最も妥当な用語であり、この言葉はすでに性同一性障害特例法として国家の法律の中で使用されています。野党3党案を提出した政党のある政治家は、性同一性障害特例法を連想させる用語を使うこと自体が差別の文脈と関係しているかのような主張をしていますが、とんでもない言いがかりです。もしそうなら、野党3党案を提出している諸政党(およびその前身政党)を含めた全政党の賛成で可決成立した性同一性障害特例法が、差別に基づいているということになるでしょう。

 与党案における「性同一性」という用語が最も妥当なものだとしても、それでもその定義は依然として曖昧なものです。それは、「自己の属する性別についての認識に関するその同一性の有無又は程度に関わる意識を言う」となっており、「性同一性」が「同一性」で定義されていて、同義反復になっているだけでなく、性同一性障害特例法との関連が明記されていません。「性同一性」が主観的な「性自認」の単なる言いかえではなく、性同一性障害特例法にもとづいた客観的な基準によるものなら、そのことを法案に明記する必要があります。

3.定義が曖昧なまま差別禁止の趣旨を盛り込めば、不当な糾弾や訴訟のリスクを抱えることになる

 「性同一性」等の定義が曖昧なまま、それによる「不当な差別があってはならない」あるいは「差別は許されない」と明記すれば、それが拡大解釈されたり悪用されたりする可能性は否定できず、不当な差別糾弾や訴訟のリスクを恒常的に抱えることになります

 たしかに、与党案と野党2党案では「不当な差別」というように、「不当な」という限定があることで、本当は差別でも何でもないもの(たとえば女性専用スペースから、男性器を持った「トランス女性」を排除すること)が「差別」だと糾弾されたり、それを理由に訴訟を起こされたりする事態が生じるリスクを軽減することができます。その意味で、与党案と野党2党案は野党3党案よりも妥当なものです。しかし、それでもなお、「性同一性」等の定義が曖昧なままであるかぎり、不当な差別糾弾や訴訟がなされるリスクを十分に抑えることはできません。

 現在すでに、このような懸念について語ること自体が当事者を傷つける差別だ、デマだと言われています。まだ法律が存在しない現在でさえそうであるならば、法律ができればそうした事態がいっそう促進されることが懸念されます。「性同一性」等の定義を客観的基準に基づいたものにするか、あるいは「差別」に関する記述をなくして、純粋に理解増進に特化させた法案にするべきです。

4.女性と子供の人権と安全に対する配慮義務の明記を

 現在、いわゆるLGBT法案に対して起きている最大の懸念は、自分を「女性」だと認識する男性が女子トイレや女湯や女性用更衣室などの女性専用スペースに入ってくる事態が助長されることです。

 たとえ、「性同一性」の定義が性同一性障害特例法に紐づけされた場合でも、法を悪用したり、あるいは拡大解釈する人が一定数発生する可能性は否定できません。そのような悪用や拡大解釈の可能性をあらかじめできるだけ防いでおくことは、この法案を推進する立場からしても必要なことのはずです。野党2党案は、以上の点を考慮して、「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」という条文を付け加えており、これは大きな改善です。しかし、なお隔靴掻痒の感がぬぐえません。本文中に、より明確な形で、「法の運用にあたっては女性と子供の人権と安全に最大限配慮する」、あるいは「法の運用にあたっては国民の権利や安全を不当に制約ないし侵害することがあってはならない」といった趣旨の一文を明記していただきたいと思います。

 野党3党案を提出した諸政党の国会議員たちは、このような配慮を法案に入れること自体を「差別」だとSNS上で非難していますが、とんでもないことです。もし本当にLGBTの方への理解増進を推進したいのなら、むしろ積極的に「女性と子供の人権と安全への配慮」を主張するべきでしょう。

5.学校教育に定義の曖昧な概念が持ち込まれれば、子どもは混乱する

 3つの案はいずれも、「学校の設置者」に対して、「性自認」ないし「性同一性」の多様性等に関する「理解増進」「教育又は啓発」を求めています。しかし、子供は大人と違い身体的にも精神的にも不安定な存在であり、あらゆる面で認識が揺らぎやすく、とくに性に関わる問題ではそうです。現在、科学的根拠のない「性自認」や「心の性」にもとづく教育がすでに多くの学校現場でなされています。定義が曖昧なままの「性同一性」等が子どもたちに教えられれば、子どもは混乱し、子供の健全な発達を歪める可能性があります。

 実際、性自認教育が進んでいる諸外国では、10代の子供に安易に、性別は自認によって決まるかのような教育がなされたり、通常は異性のものとされている服装や遊びを好む少年・少女が安易にトランスジェンダーに認定されたりすることで、性別移行をしようとする少年・少女が激増しており、その一部は、不可逆的なホルモン治療や外科手術を施され、後になって深く後悔するという事態が起こっています。このような悲劇を日本で繰り返してはなりません。

 野党2党案は、以上の問題を考慮して、「保護者の理解と協力を得て行う心身の発達に応じた教育または啓発」という一文を入れています。これも与党案や野党3党案に比べて、重要な改善であると評価することができます。しかし、ここで言う「保護者の理解と協力」がやはり、客観的基準のない「性同一性」等にもとづいてなされる場合、先に述べた問題は十分には解消されないでしょう。

 以上、5点にわたって3つの法案の問題点について述べさせていただきました。この問題はきわめて重要であり、LGBT当事者だけでなく、女性を含むすべての国民の権利、安全、自由にかかわるものです。いったん法律ができれば、その効果は絶大であり、またそう簡単に修正できるものではありません。多くの問題を含んだ法案を今国会で拙速に可決成立させるべきではないと私たちは考えます。いま一度、この問題を根底から見直し、法案に批判的な女性たちを含む当事者の声を十分に聞き取り、この問題で先行している諸外国で起きている女性と子供の人権侵害の事例について十分に調査すること、そしてその上で国民的な議論を改めて喚起し、徹底的に議論を尽くすよう、心から訴えます。

2023年5月30日

 No!セルフID 女性の人権と安全を求める会

 共同代表 石上卯乃、桜田悠希

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