意見書:「東京都パートナーシップ宣誓制度」の拙速な導入に反対します

東京都は、2022年度中の「東京都パートナーシップ宣誓制度」の導入を目指して、本年2月、その素案を発表しました。私たちはもちろん、同性カップルが何らかのパートナーシップ制度を通じて法的な保護を受けることに賛成であり、それは社会全体の平等に向けた重要な取り組みであると認識しています。しかしながら、今月、その骨子が発表された東京都のパートナーシップ宣誓制度は、「性的マイノリティ」として、「性自認が出生時に判定された性と一致しない者」(いわゆるトランスジェンダー)をも対象としており、いくつかの重大な懸念を起こさせるものです。

(1)まずもって、この骨子案にある「出生時に判定された性」という表現は、生物学的に決定されている性別が、あたかも出生時における医師の単なる主観や思い込みによって「判定」された仮のものであるかのような印象を与えるものです。これは性自認至上主義、つまり「性別」が基本的に主観的な「性自認」によって決定される(あるいは決定されるべき)という根本的に誤った非科学的思想にもとづくものです。東京都の公的な制度にこのような著しく偏った思想を混入させるべきではありません。

(2)「性自認」という用語に対するいかなる定義づけもなされていません。今回のパートナーシップ宣誓制度の根拠条例となっている東京都人権尊重条例の第3条を見ますと、「性自認」について「自己の性別についての認識のことをいう」と記されていますが、これはまったくの同義反復的で無意味な規定です。

 国の法律である2004年に施行された「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下、GID特例法と略記)では、「性自認」ではなく「性同一性」という表現が用いられています。その第二条(定義)においては、性同一性障害であることの判定には、別の性別であるとの「持続的確信」が必要と明記されており、たんなる認識とは一線を画しています。さらに、性同一性障害かどうかの「診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師」が「一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致している」ことも必要とされています。しかし、素案ではこのような国の法的規定はすべて無視され、単に「自己の性別についての認識」と規定されています。

(3)素案によると、このような曖昧な「性自認」規定に基づいて、パートナーのどちらか一方が「性的マイノリティ」である場合には、この制度が利用できるとされています。たとえば、ある男女のカップルの一方が、身体が男性のままで、自認が「女性」であり、かつGID特例法に基づく性別変更をしていない場合、現行法に基づくなら、このカップルは通常の法律婚をすることが可能です。しかし、都のパートナーシップ宣誓制度の素案によれば、このようなカップルでも同制度を利用することができます。そのことによって、このカップルは「同性カップル」として公的に承認されたと称することが可能になり、単なる「性自認」だけで女性を名乗ることに対して公的にお墨付きが与えられたとみなされかねません。その場合、GID特例法に対する重大な「抜け穴」として悪用される懸念が生じるでしょう。

 社会のさまざまな制度やルールの多くが、身体上ないし生物学上の(あるいは少なくとも戸籍上の)性別区分に基づいて設計され、運用されています。それらの制度やルールは、身体的に弱い立場にある女性と女児を守るために必要不可欠なものです。しかしながら、東京都のパートナーシップ宣誓制度を利用することで、このような施設やルールの運用が実質的に損なわれることになれば、それは女性と女児の人権と安全を深刻に脅かすことになるでしょう。

(4)このような重大な懸念が存在するにもかかわらず、東京都は、今回の素案を策定するにあたってヒアリングの対象とした有識者に、女性団体の代表者をただの一人も入れませんでした。問題が性別にかかわる以上、いわゆるLGBTの方だけが当事者なのではなく、すべての女性が当事者です。私たちはこのような人選に厳しく抗議します。

(5)東京都は日本で最大の人口を誇る世界的大都市であり、日本国内はもとより、国際的にも極めて重大な影響力を持っています。しかも、素案によれば、この制度を利用できる対象には、東京都在住者だけでなく、東京都で在勤・在学しているだけの人々も含まれています。この制度の対象がきわめて広範囲に及ぶのは明らかであり、したがってその制度に問題がある場合、一地方の条例にとどまらない重大な結果を招くことになるでしょう。

 以上の点を踏まえて、私たちは以下のことを要求します。

1.今回の東京都パートナーシップ宣誓制度の導入を拙速に行わず、東京都民からの広範で多様な意見を聴取すること。

2.ヒアリングの対象を広げ、女性と女児の人権と安全を重視する立場から懸念を持っている女性団体からも意見を聴取し、その意見を制度に反映させること。

3.条文においては、「性自認」に代えて「性同一性」という表現を用い、その意味をGID特例法に準じた規定にすること。

4.その他、この制度が悪用されないよう慎重な条文作りをすること。

2022年2月22日

No!セルフID 女性の人権と安全を求める会

共同代表 石上卯乃、桜田悠希


この意見書は東京都議会の各会派に郵送しました。

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