第208回通常国会の開幕にあたって、与野党すべての議員のみなさまに訴えます

本年1月17日、第208回通常国会が始まりました。会期は150日間の予定となっており、この国会の中で、コロナ対策や景気問題を初めとするさまざまな問題が論じられることでしょう。そして、そうした多くの案件の一つとして、前回の通常国会(第204回)の終盤で大きな議論となり、いったんは与野党で合意に至ったものの結局国会には上程されなかった「性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」(いわゆるLGBT新法)も、改めて議論になるのは間違いないと思われます。

 私たちは、与野党の合意案ができる以前に、他の人々と協力して、LGBT新法(当時は野党のLGBT差別解消法案と自民党原案のLGBT理解増進法案要綱とが並列していた)の拙速な審議・制定に反対する緊急の共同声明を出しました。私たちが懸念していたのは、この問題について正確な情報が国民に共有されておらず、十分な議論も合意もないもとで、拙速に法律が作られてしまう事態に対してでした。

 この問題をめぐって、論点は大きく言って2つ存在します。

 まず第1に、野党案および与野党合意案が採用した「性自認」という言葉が非常に曖昧なものであるということです。与野党合意案は野党案に比べて「性自認」に関して、「自己の属する性別についての認識に関する性同一性の有無又は程度に関わる意識」というようにより厳格に規定されていますが、メディアやLGBT活動家等によって、それは事実上、何らかの医学的介入を必要とせず、単に女性ないし男性だと自分が感じる、ないし認識するだけで成り立つものであるかのように扱われています。いったん法律ができれば、「性自認」という言葉が独り歩きして、きわめてルーズに解釈される可能性は極めて大きいと思われます。

 第2に、与野党合意案が「性自認を理由とする差別は許されない」としていることの解釈をめぐる問題です。もちろん、私たちは、性的指向や性自認が何であれ、それを理由にして就職や昇進、進学、部屋を借りたり契約をしたりする際に不利益を被ることはあってはならないものと考えています。しかし、それ自体が曖昧な「性自認」を理由とする「差別が許されない」とする文言が拡大解釈されることによって、公共施設の運用ルールを初めとするさまざまな社会のルールが性自認だけにもとづいてなされる危険性があることに目を閉じることはできません。

 私たちは、昨年の第49回衆議院選挙に向けて、各党に宛てて公開アンケートを出し、「性自認を理由とする差別」とは具体的に何を想定しているのかを問いただし、女子スポーツに「性自認が女性であるが身体が男性のままの人」が参加できないことや、そうした人が「女性用トイレや女性用の公衆浴場に入れないこと」は「性自認を理由とする差別」にあたるのかどうかを尋ねました。しかしながら、「性自認が女性であるが身体が男性のままの人が女子スポーツ参加できないこと」やそうした人が「女性用トイレや女性用の公衆浴場に入れないこと」は「性自認を理由とする差別」にはあたらないと明言した党は、与野党を通じて一つもありませんでした。

 「性自認を理由とする差別は許されない」という文言を法律に盛り込もうとしている与野党が、女性の人権と安全に決定的に関わる事柄について、女性に寄り添う明確な態度を示せなかったことはきわめて憂慮するべきことです。

 したがって私たちは、通常国会の開幕にあたって、以下のことを与野党議員に求めたいと思います。

 1)新たなLGBT新法の法案を作成する場合、曖昧で多義的な「性自認」という言葉は避け、既存の法律(「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」)ですでに使われている「性同一性」という言葉を用いるとともに、その言葉の意味を、同法において規定されている性同一性障害の3つの要件、すなわち、①「生物学的性別がはっきりしているのにもかかわらず、別の性別であるとの持続的確信を持っている」こと、②「自己を身体的および社会的に他の性別に適合させようとする意志を有する」こと、③「その診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致している」こと、に準じたものとすること。

 2)「性自認を理由とする差別」(当会の主張では「性同一性を理由とする差別」)という文言が拡大解釈されないよう、法案の条文に、「本法の施行ないし運用に当たっては、公共の福祉および女性と子供の人権と安全に抵触しないよう最大限配慮する」という趣旨の文言を入れること。

 3)法案の策定・審議に当たっては拙速を排し、海外の情報を含むできるだけ詳細な情報を集め公開し、できるだけ多様な意見に耳を傾けること。そして、この法案の影響を受ける当事者はLGBTだけでなく、すべての女性たちであることもしっかりと認識し、市井の女性たちの声に耳を傾けること。

2022年2月2日

No!セルフID 女性の人権と安全を求める会

代表 石上卯乃、桜田悠希

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